クラシック音楽レビュー

「シンドラーのリスト」サウンドトラック Vn:イツァーク・パールマン

シンドラーのリスト 少女

私はそれほど多く映画を見る方ではありません。大学時代は暇なので、名画と言われるものは一通りレンタルビデオで借りてきて見ていました。最近はテレビでやっているのをたまたま見る位で、これは面白いというものについては別でDVDで買って手元に置いています。といっても家にあるのは「スティング」と「LAコンフィデンシャル」「シンドラーのリスト」という雑多な3作品。

音楽が気に入ればサウンドトラックのCDも買います。これもラグが素敵な「スティング」、タンゴ演奏が魅力な「セント・オブ・ウーマン~夢の香り」、そして静謐感漂う「シンドラーのリスト」の3つがあります。ジョン・ウィリアムスの手による「シンドラーのリスト」の音楽は、映画の筋そのまま時代の暗さと内容の重さが漂います。ヴァイオリン・ソロによる哀愁漂うメロディーに弦楽アンサンブルが寄り添う音楽が効果的であり、録音も低音~高音までしっかり収められておりオーディオ的にも楽します。

「シンドラーのリスト」サウンドトラック
作曲・指揮:ジョン・ウィリアムス
ヴァイオリン:イツァーク・パールマン
ボストン交響楽団のメンバーによる臨時編成オーケストラ

最近は自身の映画音楽をウィーンpoやベルリンpoでも指揮しコンサートを行っているジョン・ウィリアムス。コンサートの模様はBlu-rayやCD、またレコードでも発売されるなど、不況のクラシック音楽界に一時の賑わいを与えてくれていました。私は正直そこまでは・・・と思い手を出してはいません。それならば当時の空気感を感じることができるサウンドトラックの方がいい。「スターウォーズ」とて、多少録音が悪くとも当時の機材の限界に挑戦するような音作りと演奏+録音の方がいい。

いちばん有名なメイン・テーマ。ヴァイオリン・ソロを聴くだけで白黒で制作された映画本編が思い起こされ胸が締め付けられる。ヴァイオリニストは、ユダヤ人の名ヴァイオリニスト イツァーク・パールマン。クラシック音楽でも多数の録音を行っており1985年前後は出すCDは評価が高かった。その楽曲への初聴きにはテクニックも万全で分かりやすい反面、どの演奏も音色と表現が明るく一辺倒なため飽きやすいし、好事家からは「深みが無い」と徐々に存在感は薄れていきました。私の棚にも気づけば彼のCDは1枚も無くなっていました。


このCDでの演奏は素晴らしい。いつもながらの明るいトーンながらも、悲壮感漂う空気の中に一筋の光明が見えるかのような音楽になっています。ムターのように「どう?悲しい重い音楽でしょ」と演奏されるとただの重い音楽だけになってしまう。彼にとっては不本意でしょうが、私にとってはパールマンのカタログの中で一番長く残り続けるのはこのサウンドトラックだと思います。

その他映画の中で使用された音楽は全て静かで暗さを伴う。効果的なギターやリコーダーの使用、ヘブライ語での合唱、ユダヤ的な音楽語法(増二度旋法やトライトーン)などがより暗さを助長しています。映画の筋通りシンドラーの心情変化通りにトラックは作成されています。唯一希望を感じる音楽はトラック10「救出リスト作成」、続く11「名前を告げて」位です。あとは全て泣きの音楽。

最後はメインテーマがピアノと弦楽合奏で演奏される曲で締めくくられます。CD1枚流して聴いた後も、本編映画を観た後のように気分が沈むことは無く、純粋に音楽に感動できたなと満足感を得られます。それだけ各曲が編曲含め完成度が高いからだと思います。映画音楽で数々の名曲を生み出しているジョン・ウィリアムスですが、聴いた後でも心に残るのはこの「シンドラーのリスト」の音楽が一番ではないかと思います。ほとんどのサウンドトラックのCDは、いい音で迫力凄いなー、こんな映画だったなーとかで終わる、思い出したからもういいやとなるが運命です。


「シンドラーのリスト」は1994年アカデミー賞で作曲賞含む7部門を受賞、監督のスティーブン・スピルバーグも悲願の受賞でした。白黒(少女の赤いコートを除き)で制作され、内容も第二次世界大戦中のユダヤ人収容所を扱っていることから非常に重く、時間も3時間を要す大作であるものの、いつも見始めると途中ではやめられなくなる名作です。イスラエルを取り巻く環境は今あまりよくはないですが、あの時代の狂気は決して忘れてはならない、他人事として考えることなく今でも目を背けてはならない歴史として認識しなくてはと考えさせられます。


サイトウ・キネンでも。

日本では映画音楽上がりの指揮者 アンドレ・プレヴィンも長らく冷たい評価から抜け出せなかったように、クラシック音楽通は映画音楽を下に見ている人が多いと思いますが、ぜひ手に取って聴いてもらいたい名盤です。ジョン・ウィリアムスもアンドレ・プレヴィンも、ウィーンpoと演奏することによって「クラシック音楽的」評価が高まるというのも、ブランドに相変わらず弱い業界・リスナーだなとも感じてしまう。

※当ページはシーサーブログ「クラシック 名曲・名盤求めて三千枚」からの引っ越しページです。徐々にこちらに軸足を変えていく予定です。 旧ページ:クラシック音楽 名曲・名盤CD求めて三千枚

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