昔ワーグナーの歌劇・楽劇のLP・CDは、購入リスクが高い(演奏時間が長いため枚数が多い、録音がダメだったり駄演だと痛い)ためあまり購入していませんでした。実際に今も棚に多くはありません。とはいえカイルベルトのバイロイトの「指環」、クナッパーツブッシュの1956-58年のバイロイトの「指環」と朝比奈の「指環」がありそれだけでもかなりのボリューム(ショルティは無し)。しかし購入したのは廉価になったここ数年のことです。
「ニュルンベルク無しのマイスタージンガー」と言われたヴィーラント・ワーグナーの演出。
そんな中でこのクナッパーツブッシュの1960年バイロイト音楽祭の「マイスタージンガー」のCDは、ずっと前から手元にありました。そもそもワーグナーを聴き始めは大体「タンホイザー」序曲か「マイスタージンガー」前奏曲と相場が決まっていますからね。でもその中で何故単体では一番長い「マイスタージンガー」でしかも1960年のクナのライブかと言いますと・・・
ワーグナー 楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」全曲
ヨゼフ・グラインドル(ザックス)
ヴォルフガング・ヴィントガッセン(ワルター)
カール・シュミット=ワルター(ベックメッサー)
テオ・アダム(ポーグナー)
ゲルハルト・シュトルツェ(ダヴィッド)
エリーザベト・グリュンマー(エヴァ)
指揮:ハンス・クナッパーツブッシュ
バイロイト祝祭管弦楽団&合唱団
1960年 バイロイト音楽祭ライブ
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しかし、凄い豪華な布陣。40年前に高価で録音状態にも大きな不安があるにも関わらず、高校生がなけなしの金でこの演奏をLPで手に入れようと、輸入盤屋(LP)に注文しましたが3か月待っても入荷せず。ネットも無いし海外で廃盤なのかもわからずうやむやにされてしまいました。
その後CD時代に入り忘れかけていたころ、レコード芸術の店舗広告の中にこの録音のCDを見つけました。即注文し伊メロドラムのCDを手に入れ、その後ゴールデン・メロドラム盤に買い替えて聴いていました。メロドラム両盤は1960年という録音年としては少しこもり気味の音ですが、低音豊かな演奏の重厚感と歌手の豪華な饗宴にまずまず満足していました。
さて何故にそれほどまでにこの演奏に魅かれていたのかというと、「マイスタージンガー」前奏曲のポケットスコア(全音)の解説(高木卓氏)の中に、「実演に接した1960年のバイロイト音楽祭でのクナッパーツブッシュの舞台は歌手共々それは実に見事なものだった」という一文があったから。
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今でも変わっていないみたいです。通常、ポケットスコアの解説には淡々と楽曲説明をするだけなのに、この一文をぶっこんでくるとはよほど凄い演奏だったのだろうと思ったわけです。その時にはまだ前奏曲しか聴いたことがありませんでした。でも聴いてみたかった。ちょうどその頃NHKでスウィトナーとベルリン国立歌劇場来日公演「マイスタージンガー」全曲が放送され、全曲を知ることができました。4時間超える演目、高校生にはすべてを理解するのは困難でした。ただワーグナーの楽曲の中では、演奏時間を除けばストーリーも音楽も聴き易いとも思いました。1幕の最後のドタバタと第3幕が印象に残り、やはりクナの演奏を聴いてみたいと再度強く思ったものです。
あるんだ・・・調子が良かったスウィトナー。
ようやく手に入れた音盤、その演奏は期待に違わぬ素晴らしい演奏。この年のマイスタージンガーは賓客を多く招いての演目だったこともあり、クナッパーツブッシュは前奏曲から気合が入っている。通常遅いテンポで演奏するのがクナ流ですが、何故かマイスタージンガーに関してだけはいつも中間テンポを採用。前奏曲も早めのテンポで前進性があり気迫漲る。このままオーケストラは4時間以上も持つのか?と思う程ですが、持つんですよね。全幕クナッパーツブッシュの悠々としたテンポの中に喜びも悲哀も感じさせる。
第3幕の前奏曲での一転悲劇的な響き、楽劇全体も祝祭的でありながらワーグナーの重みもしっかりと感じさせる演奏。歌手もヴィントガッセン、グラインドルの全盛期ですから文句なし。当然ライブならではの傷は所々にありますが、全体としてみればそんな些末なことは気にならない。ポケットスコアの解説の通り。ティーレマンのDVDや最近のバイロイトでの演奏とは比べ物にならない重厚感と充足感を味わえます。
録音に関してはメロドラム盤も低音が豊かでそこまで悪くなかったです。正規版としてようやく陽の目をみたORFEO盤。ORFEOか・・・リマスタリングは大丈夫か?と一瞬躊躇していましたが、クナの音源に関しては信頼できるHPで「買い直す価値ありの音質」とあり買いなおし。ORFEO盤はメロドラム盤に比べ全体的に明瞭で、声に関しては非常に伸びやかになっています。聴衆ノイズ・舞台上のノイズもそのままなので臨場感があります。評判の悪かったアイヒンガー&クラウスコンビは引退したのか、このCDの担当はクリストフ・スティッケル。最近はタワーレコードの独自企画でドイツ・シャルプラッテン原盤のリマスタリングを担当しています。非常に耳がいいエンジニアだと思います。

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1952年にも振っています。録音状態は線が細いが明瞭です。
声が明瞭になった分、オーケストラが少し引っ込んだような印象に感じになってしまいましたが、恐らくバイロイト祝祭劇場のバランスはこのようなものと推察されます。今まで霞がかかっていたような音から靄がとれ、クナが如何に上手く歌手とのバランスをとり楽譜の細部にまで気を遣って演奏していたかがわかるようにもなりました。1960年の録音、モノラル最終期の録音としては最上の部類に入ると思います。
「マイスタージンガー」の著名な録音ではヨッフム盤やカラヤン盤がありますが、上記の思いれが強すぎて聴く気も起らない。聴こうと思ったのはティーレマン/ウィーン国立歌劇場のライブDVDのみ。評判もよく腰の据わった響きはいいものの、序曲からティーレマンの悪い癖(特にダッ・ダダダーという旋律に対する意味不明なピアノからのクレッシェンド)が出ているような気がします。全体的に弛緩した部分と勇み足も見える。何より歌手が全盛期のバイロイト常連に比べてしまうと見劣りが・・・こればかりはどうしようもない。
作品に合わせ長い記事ですが、それだけ積年の想いが詰まっている演奏記録です。こんな演奏が繰り広げられていたバイロイト音楽祭が本当にうらやましく思います。この音質で1958年のクナの「指環」が出てくれれば・・・・と欲が出てしまう逸品です。
※当ページはシーサーブログ「クラシック 名曲・名盤求めて三千枚」からの引っ越しページです。徐々にこちらに軸足を変えていく予定です。 旧ページ:クラシック音楽 名曲・名盤CD求めて三千枚
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これはCTAサンプルです。
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