クラシック音楽レビュー

サンソン・フランソワで聴くプロコフィエフ ピアノソナタ第7番(1961年録音)

フランソワ

プロコフィエフは、9曲のピアノソナタを残していますが、第6番から第8番までの3曲は「戦争ソナタ」と呼ばれ、演奏されることが多い円熟作であり、プロコフィエフの鋼鉄のフォルティッシモや複雑な緻密に計算されたリズム構成も彼独特。特に1939年から1942年にかけて作曲されたこの第7番は、一番知られていて演奏される機会も非常に多い。散りばめられた不協和音が良いスパイスとなり、不思議な感覚と緊張感を20分程度強いられる。
プロコフィエフ
タランテラっぽいリズムでほぼ無調で不協和音連続の荒々しい第1楽章、一転して神秘的で美しい第2楽章、切れ目なく演奏されまた変転する第3楽章。3楽章は演奏時間が短い、また演奏効果も高いことからアンコールでも弾かれることが多い。7拍子(2+3+2)という変拍子で、常にピアノは打楽器的に叩き鳴らされ、ピアニストには正確なリズム感が必要。また絶え間なく左手の変ロ音が鳴り響きどろどろとしながらも、リズム・音色が変転していく様は何度聴いても圧倒されます。全体通して演奏難易度も非常に高い。

ユジャ・ワンが水を得た魚のように演奏しています。意外と抑えめのテンポ設定。

そのため第3楽章が良くないと面白くない。とはいえリズム・ダイナミクスを明確に弾きこなすのは非常に演奏困難。この部分をピアノの音色変化も交えて見事に弾き切った演奏はフランソワのスタジオ録音か、アルゲリッチ位でしょう。リヒテルは強靭な打鍵一辺倒、それは豪快ですがちょっとミステリアスな部分に欠けます。ポリーニは一気呵成で正確無比だが音色が単調で物足りない。

それにしても、フランソワの軽妙酒脱な音色、そして衝撃的なピアニズム。リヒテル、ポリーニなどと同じ楽器が出す音なのかと。フランソワにはあまり合わなそうな曲だと思うのですが、彼の分裂症的気分にピタリと融合したのかもしれない名演です。いい意味で酔ったかのような演奏と曲想がマッチしている。

プロコフィエフ ピアノソナタ第7番
ピアノ:サンソン・フランソワ
1961年 スタジオ録音

※下記BOXには晩年のライブ録音も収録。そちらはかなり荒くミスタッチも目立つ。


ラヴェルとドビュッシーの録音だけでもおつりが来ます。

戦争ソナタとも呼ばれる通り、壮絶で阿修羅のごとき演奏。そこにミステリアスな雰囲気を織り交ぜてくるところがフランソワの素晴らしいところです。第一楽章は不協和音が不穏な空気感を醸し出し、第2楽章で魅惑的な世界を醸成して、第3楽章への十分な布石を作り上げています。そのため第3楽章がより一層飛び跳ねるような感じが増す。またテンポはかなり速く設定されている中で、stop&goも微妙に行っており速度一辺倒でもない。音色も多彩。まるでピエロが観客無しのステージで狂ったように躍っているかのよう・・・

この演奏を聴いて、他のピアニストはどんな演奏をしているのだろう(普通の演奏はどうなのだろうということです)と思って聴きましたが、他の演奏は駄目。完全にフランソワの演奏を一聴して刷り込まれました。唯一アルゲリッチだけ、この演奏に太刀打ちできるのは、唯一アルゲリッチだけ。ホロヴィッツの演奏もありますが、フランソワの方が打鍵の強さも勝る。
スタジオ録音の第1楽章。


第2楽章。1964年のライブ。

第3楽章は1960年のフランソワのライブで。スタジオ録音よりも攻めている。少し弾き飛ばしは目立ちます。

狂気の沙汰です。この演奏を聴くと芥川龍之介の「地獄変」を思い出します。燃え上がる牛車、炎をみて陶酔している良秀。第3楽章が特に。7拍子という変則的な拍子も特徴的ですし。クラシックの曲というより、ジャズの即興演奏のよう。

うっとりするような演奏をするかと思えば、何かに憑りつかれたかのような演奏もする、そして気がすっぽ抜けてしまったかのように箍が外れた演奏もする。それもフランソワの魅力。今の時代からは輩出されることのない才能の持ち主ですね。クリュイタンスとのプロコフィエフのピアノ協奏曲録音は名高いですが、このソナタは他の曲とカップリングしにくいのか単売されないのであまり有名ではないのが残念です。

アルゲリッチも得意の曲ですが、若い頃より後年の演奏の方が勢いだけでなく味わいが深くなっている。ブレーキが途中でしっかりかかり、音色もこの至難の曲で多彩。


録音もしっかりしているし、もっと話題になっていいと思う。演奏もそれぞれ素晴らしいし、東北震災への寄付もされるアルゲリッチの気持ちもこもっているCD化。

ラン・ラン。陽キャなプロコフィエフ。


グールドのバッハなプロコフィエフ。有名なピアノ椅子が横に揺れる必要性があるのがよくわかります。

聴き比べも結構面白い。

パブリックドメインになり良好なリマスタリングもされたので、フランソワはもっと再評価されるべきです。コルトーに才能を認められるほど瀟洒で粋、酒とたばこをこよなく愛し溺れるが故、出来不出来は激しいがそれすらも芸となる希少な演奏家です。このSNS全盛の令和ではつぶされているでしょうが、、、、ショパンやドビュッシーばかりが彼の得意領域ではないことを知れたのは、今のBOX隆盛時代のよい産物なのかもしれません。普通なら歴史に埋もれていた演奏・録音でしょう。

※当ページはシーサーブログ「クラシック 名曲・名盤求めて三千枚」からの引っ越しページです。徐々にこちらに軸足を変えていく予定です。 旧ページ:クラシック音楽 名曲・名盤CD求めて三千枚

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