クラシック音楽レビュー

ジャン・マルティノンのパリ音楽院管弦楽団の名盤

20世紀中ごろに活躍した指揮者にジャン・フランシスク=エチエンヌ・マルティノン(1910年1月10日 – 1976年3月1日)がいます。フランスの指揮者でエラートに録音したフランス国立管弦楽団のドビュッシーが名盤として未だに語り継がれており、その録音集だけで今後も名前が残ると思われます。私はドビュッシーの管弦楽曲の良い聴き手ではないし、当時のよく言えば臨場感のある、悪く言えば輪郭曖昧なエラート録音が苦手で、その相乗効果もあって未聴です。

私にとってマルティノンは、その録音の少し前の時代のDECCA録音時代が好みです。輪郭がカチッとした録音、逆にローカル色強く少しダルなパリ音楽院管弦楽団と一緒に録音したものが愛聴盤です。パリ管弦楽団になる前、所謂クリュイタンス時代のパリ音楽院管弦楽団、特に管楽器のノーブルで土臭い音色は本当に魅力的です。クリュイタンスと録音したラヴェル録音も素晴らしいものの、EMI録音ゆえその魅力がすこし伝わりづらい。1950年代はDECCAがよくこのオーケストラをアンセルメやマルティノンの録音で使っていました。逆に近接マイクでその魅力が存分に伝わってきます。しかし興が乗らない時のこのオーケストラの悪さも録音として残ってます。例でいえばクナッパーツブッシュとのR・シュトラウス録音。そもそもなぜこのコンビでR・シュトラウスの企画にしたのかが不明です。

その時期のマルティノン録音から2つの名録音。しかも同曲の名録音が少ないため非常に重宝しています。1枚目はフランス音楽集。
マルティノン フランス音楽集

・イベール:ディヴェルティスマン
・サン=サーンス:『死の舞踏』
・ビゼー:小組曲(『子供の遊び』より)
・サン=サーンス:交響詩『オンファールの糸車』
・ベルリオーズ:序曲『ローマの謝肉祭』
・ベルリオーズ:序曲『海賊』
・ベルリオーズ:歌劇『ベンヴェヌート・チェルリーニ』序曲
・ベルリオーズ:歌劇『ベアトリスとベネディクト』序曲
指揮:ジャン・マルティノン
パリ音楽院管弦楽団
1960年スタジオ録音

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おもちゃ箱をひっくり返したかのような曲と演奏ばかりでフランス音楽の賑やか・華やかさが堪能できます。1960年の録音ではあるものの、非常に素晴らしい録音で故長岡鉄男さんもFm-fanで取り上げていました。イベールのディヴェルティスマンは演奏・録音頻度が少ない曲ですが、簡潔かつ詩情豊かでパリの賑やかさが味わえるような愉しい曲です。


これをマルティノンがパリ音楽院管弦楽団の美質を生かして活き活きと演奏しています。この時の首席奏者は皆音色に一癖あり、トランペット・バスーン・オーボエは特に特徴的で味がある響きです。この曲の録音としてはデュトワ/モントリオール交響楽団の録音位しか知りません。

ベルリオーズの序曲も繊細かつ豪快な演奏でマルティノンがパリ音楽院管弦楽団の良さを生かしつつ、うまく乗らせて演奏してます。特に「海賊」のラストはライブのような盛り上がり+雑さがあります。
クリュイタンスのエスプリ感と違い、少し豪快さというか肉厚感があるのがマルティノンの特徴と言えるのかもしれません。全体的にオーケストラの良さを引き出しつつライブ感のある1枚となっています。

私はこの「ディヴェルティスマン」の演奏が好きで、初期盤LPも探してレコードでも所持しております。初期盤だとより快活でピアノも含めた打楽器も賑やかに鳴ります。名プロデューサー カルショーが曲とオーケストラの特徴を熟知して、それを見事にパッケージに収めています。不満があるとすれば、グランカッサの音は少し音が混濁(当時のレンジの限界)する位でしょうか。

2枚目。アダンのバレエ音楽「ジゼル」(ビュッセル版)。原曲よりもかなり短縮され改訂されたもの。ただ非常にバランスがよくまとめられていて、有名なカラヤン/ウィーンpo盤と比べても感銘度がかなり違います。カラヤン盤は「見事」「美しい」「巧い」ものの、どうも美麗過ぎて面白みに欠ける。それを見事に補ってくれるのがこの演奏。

マルティノン ジゼル

アダン:バレエ音楽「ジゼル」(ビュッセル編曲版)
パリ音楽院管弦楽団
指揮:ジャン・マルティノン
1959年11月 スタジオ録音

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19世紀前半にパリで活躍した作曲家アダンのバレエ音楽。この曲でしか名を残していません。全曲はマイケル・ティルソン・トーマスの録音があります。全曲だと冗長な感があります。そのバレエ音楽を作曲家兼指揮者だったビュッセルが改訂・短縮したもの使用しているのが、このマルティノン盤。

バレエではよく取り上げられる曲ですが、コンサートレパートリーとしては取り上げられることは無いようです。マルティノンは、よく洗練され均整のとれた演奏です。少しゆったりとしたテンポで、色彩豊かに演奏しています。この曲に関しては弦楽器の美しさが目立ちます。レコードで聴いても飽きないような仕上げになっていて、ピアニッシモからフォルティシモまでダイナミックレンジが広い。実際のバレエ付きの場合はこうは演奏できないと思います。


1曲目から弦楽器の勢いのある(アンサンブルは怪しい)入りから、管楽器・打楽器を開放的に鳴らして快活にスタートします。中盤は弦楽器の甘さも生かした美しいフレーズの連続でLPのB面第2幕(こちらもLPで持っているということです)は本当にうっとりさせてくれます。この演奏に関しては最初にLP知りました。貧相なレコードプレーヤーでも非常に押し出しのいい音がスピーカーから飛び出してきて、すぐに曲と演奏の魅力に取りつかれました。CDで聴くと少し感銘度が落ちてしまうのが残念です。

こちらもパリ音楽院管弦楽団の特色を生かした感じがありますが、1枚目のフランス音楽集よりかは雑さが目立つ。こちらもノリと勢いで演奏している感があり、陶酔的な部分があったかと思うと流している感じがする部分もあります。個人的にカラヤン盤がなぜそこまで名盤として有名で、このマルティノン盤がまるで取り扱われないのかが不思議でなりません。


確かに指揮者・オーケストラの知名度・技量は劣るのかもしれませんが、カチッとしたカラヤン盤よりも演奏としては魅力的で、全体の感銘度はカラヤン盤より高い。同じDECCA録音でマルティノン1959年、カラヤン盤1961年なのでDECCAの販売戦略の影響を大きく受けてしまったのかもしれません。

マルティノンの本来の良さはこういうところにあるのではないかと私は思ってます。でなければシカゴ交響楽団も音楽監督に招かなかったと思います。就任後の評判は惨憺たるものだったそうですが。EMI時代のマルティノンの演奏は落ち着きすぎて面白くないと感じてしまいます。是非マルティノンという指揮者、パリ音楽院管弦楽団という文化遺産、滅多に演奏されない曲を上記2盤で味わっていただきたいと思います。
マルティノン decca
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