クラシック音楽レビュー

壮絶!アーベントロート/ライプツィヒ放送交響楽団の「悲愴」

アーベントロート

ヘルマン・アーベントロート(1883-1956)というドイツの指揮者がいました。戦後は旧東ドイツで活躍したためそれほど知名度もありませんが、亡くなった際は国葬扱いで葬儀が行われるほどドイツに愛された指揮者です。主に活躍したのはドイツ国内で東ベルリン・ライプツィヒ、ただロンドンやパリ、またロシアへも積極的に客演していました。
abendroth
演奏の特徴はメンゲルベルクとフルトヴェングラーを足して2で割ったような感じで、旧演奏様式で耽美的ではあるものの形式的ではなく、ライブで熱の入った演奏をしています。メンゲルベルクよりも激しくリタルダンドをかける時もあれば、フルトヴェングラーよりも激しくオーケストラを煽って破綻させてもしまう。ド演歌的ともいえる演奏で、そこがインターナショナルな名声を得られなかった要因かもしれません。

ベートーヴェン、ハイドンなどETERNAに多くのスタジオ録音を遺しています。「第9」、ハイドンの交響曲第88番などは優れた録音です。ただ彼の本領はやはりライブで、代表的な録音と呼ばれるチャイコフスキーの「悲愴」はライブ録音です。バイエルン国立管弦楽団とのブラームス 交響曲第1番のようにオーケストラを破綻させるほどの爆演もありますが、この「悲愴」はそのぎりぎりのラインで踏みとどまった名演奏です。

チャイコフスキー:交響曲第6番 ロ短調 「悲愴」
指揮:ヘルマン・アーベントロート
ライプツィヒ放送交響楽団
1952年1月28日 ライブ録音

※当然モノラル録音ですが、生々しさがあり好録音です

 

かなりゆったりと歌う第1楽章、有名な第2主題も耽美的に咽ぶように歌いぬきます。展開部では一気にギアチェンジして猛烈にかっ飛ばします。急に荒々しくなるものの、時折テンポを大きく揺らして細かく音楽の表情付けをしています。アーベントロートあるあるで金管楽器をこれでもかと力任せに吹かせる部分が多々あり、こういうところが少々浪花節で田舎臭く感じます。最後はまた消えゆくように・・・・悪く言えば怒り狂っていたと思っていたら急に泣き始めるみたいな感じで感情が追い付かない部分もあります。

5拍子の音楽といえば悲愴の第2楽章。良いテンポでチェロがワルツ的に朗々と導いてくれます。音楽の流れに合わせてテンポを気持ちよく伸び縮みさせてこの魅惑的な旋律を引き立たせています。呼吸するようにリタルダンドして中間部へ。中間部はメンゲルベルク的に大きくテンポを揺らす。中間部から主部に戻るときの名残惜しさを感じさせる表現が素晴らしい。中間分のテンポと音量を数小節残しながら主部を再現。今どき古臭くてこのような表現は耳にしません。

阿鼻叫喚の第3楽章。行進曲的にインテンポを守りながらアーベントロートは進めていきます。トロンボーンとティンパニを中心にして徐々に熱を溜めていき、(下記youtube 35:01~)最後の行進曲を奏でる手前で大太鼓を轟かせながら金管とともにテンポを落とし、シンバル1発後に大見得を切るように全オーケストラで行進曲を存分に歌いぬく。ティンパニ・大太鼓は急に楔を打つような鋭さがありながら地を這うような深い音で前に出てくる。そしてまたコーダでトロンボーンが飛び出してしまうほどのアッチェレランドで締めくくる。この第3楽章、まだ第4楽章が残っているのにライブでは今でも楽章終わりに拍手が起こることしばしばですが、おそらくこの演奏を生で聴いたら迫力に唖然として拍手なんてできないだろうなと思います。

急転直下で噎び泣き狂う第4楽章。テンポはまたぐっと落として弦楽器を徹底的に嘆かせる。レガートと音量調整でひいては返す波のような表情付けを行い、これでもかというほど濃密に歌わせる。芝居がかっているがチャイコフスキーがこの聴いたら泣いて喜びそうな悲壮感であり、聴いていて絶望感で身がつまされる演奏。最後のクライマックスでも程よく力を抜いた山を持たせるなど力業一辺倒でないところは、全体を俯瞰しているからできる芸だなと思います。90年代の展開ハイスピードドラマを見たような疲れが最後に襲います

全体的にロシア的な雰囲気は皆無で、ドイツ的な悲愴ではあるもののこの曲が内包しているものを究極的にデフォルメした名演奏だと思います。亡くなられた宇野功芳氏が絶賛したことでも有名な演奏。これは当たり名盤です。この演奏だけでアーベントロートの名前は忘れ去られることなく残ってほしいと願わずにいられません。
なお最新リマスタリング盤もあるようですが、KINGのハイパーリマスタリングの方が迫力があるようで私は買いなおしておりません。

下記は笑いが止まらなくなるバイエルン国立管弦楽団とのブラームスです。36:50~最後まで聴くだけでも十分。

※当ページはシーサーブログ「クラシック 名曲・名盤求めて三千枚」からの引っ越しページです。徐々にこちらに軸足を変えていく予定です。 旧ページ:クラシック音楽 名曲・名盤CD求めて三千枚

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