クラシック音楽レビュー

レスピーギ「ローマ三部作」の名盤選 トスカニーニ・ムーティ・バッティストーニ・スヴェトラーノフ・山田一雄

ローマの噴水

オットーリノ・レスピーギ(1879-1936)の代表的管弦楽曲であるローマ三部作(ローマの噴水・ローマの松・ローマの祭)。この作品しか有名でないため、あまり知られていない作曲家ですが、ラヴェルにも劣らないオーケストレーションの才能の持ち主。ローマの松はよくコンサートで演奏されるものの、三部作で演奏されることはあまりないのは残念です。特にローマの祭は、コンサート会場で聞いたら興奮すること間違いなしの作品です。

N響ではちょっと前にシャルル・デュトワが、最近ではファビオ・ルイージがと三部作を一夜で演奏し、テレビでも放送されました。N響も見事な演奏で応えていました。この三部作で不思議なことは、三部作全てを録音しない指揮者が意外と多いのも特徴。バーンスタインならば祭りと松、カラヤン・ライナーなどは松と噴水のみしか録音を残していません。演奏記録も無いのではないでしょうか?
ローマの噴水
三部作それぞれに特徴があり、家のオーディオ装置の能力を測るには最適な作品でもあります。

「ローマ三部作」

ローマの噴水・・・ローマの噴水を描写した叙情的な作品。高音域をいかにうまく再生するか。
ローマの松・・・ローマの有名な松を題材にした豪奢な作品。ダイナミックレンジを測るのに最適。
ローマの祭・・・ローマの祭を題材にした諧謔的な作品。より複雑な楽譜、またソロ・トゥッティの差をどう描き分けることができるか。

最終音のクレッシェンドがえげつない音響のスヴェトラのローマの松。アンコールするというのも驚き。昔高値で取引されていたCDの音源が映像であるとは。

さて三部作が1枚に収まったCDでは、約半世紀にわたりトスカニーニ/NBC交響楽団のものが代表的名盤とされており、録音さえステレオであればこれを超えるものはなかったことでしょう。
ローマ三部作 トスカニーニ
指揮:アルトゥーロ・トスカニーニ
NBC交響楽団
録音:1949-53年 カーネギーホール

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今のレベルと比較しても遜色ないオーケストラの技量もすごいですが、トスカニーニの巧みにコントロールされた美しいカンタービレから強靭なfffまでの表現の幅広さ。「マイク壊れるから」という理由で音量を抑えてとプロデューサーに言われたら、そんな機材をぶち壊してしまおうとぶち切れてしまったマエストロ(笑)「祭り」など確かにマイクが壊れてしまいそうなfffです。多国籍混合の交響楽団の良さとトスカニーニの煮えたぎるイタリアの血が見事に融合した演奏です。ただアンサンブルが揃って勢いのある演奏でないことは、「噴水」の叙情性を聴けばわかることで、そこには確かなマエストロの技としっかりとした思想があります。三部作そつなく素晴らしい。


録音も70年前のものですが、平林復刻が素晴らしい。何度もリマスタリングされ一度も廃盤になったことがないというのは、凄いことです。昔のLPでは固い音でしたが、録音会場がカーネギーホールということもあり、リマスタリングで仄かな残響とNBC交響楽団の艶のある音が聴けるようになり再度見直されるべき演奏となりました。

その後、ステレオ時代はオーマンディとフィラデルフィア管弦楽団、デジタル時代に入ってからはその後任のムーティ/フィラデルフィア管弦楽団の演奏が名盤とされました。
ローマ三部作 ムーティ
指揮:リッカルド・ムーティ
フィラデルフィア管弦楽団
録音:1984年 フィラデルフィア、メモリアルホール

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一般的には薦めやすいCDです。初めて聴く方には一番いいのかもしれません。オーケストラの音色感もフィラデルフィア・サウンドがまだ残っている頃で美しい部分も多く、そこにまだ熱血漢だったムーティの颯爽としたタクトが冴えわたります。特に管楽器のソロイスティックな巧さと弦楽器の血色のいい艶がある響きが印象的です。なので意外と「泉」や「松」「祭り」の緩徐な楽章がいい演奏です。逆に「祭り」や「松」の最終楽章がやや物足りない。

ムーティの若いころの録音レーベルは、EMIでした。そのため、、、クレンペラー録音時代と変わらず臨場感はあるがフォーカスが甘く、フォルティシモになると音が飽和し音の分離が悪くなる傾向にあり、推進力とキレが持ち味のムーティとは相性が良かったとはいえず、数多くの録音が残されているものの人気が続いているのは少ない。この一枚は数少ない例外。しかし、「もう少し録音が鮮明だったら・・・」という無いものねだり感が根強い。


そんな中、タワーレコードが2024年にリマスタリング。レビューに「解像度が上がって分離もよくなり、フィラデルフィア管弦楽団の音色が堪能できるようになった」とあったので、本当かしらと購入。確かに昔のぼんやりした中で暴れているムーティの颯爽とした音が、靄が取れ解像度も上がっていることから、当時まだ在籍していたフィラデルフィア管弦楽団の名奏者の音色が堪能できるようになってます。特にヴァイオリンの音色は、ここまで潤いがあり上に伸びていくシルキーな音色だったかと驚き。噴水の美しさと言ったら。ため息が出るほど。
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強奏時は当時の録音限界と元録音の傾向もあり飽和して甘くなってしまうため、最新の録音に比べれば劣ります。低音もごりっとしておらず会場に響き渡る低音で、スピーカーの前に迫力のある音が出てくるというよりかは、後ろにふわっと響く音。それを補うくらいにレンジは上に広い感じです。木管楽器・金管楽器へのフォーカスは明瞭になり、時折ソロが名技を披露するこの曲では非常に有効。この名盤の価値も復活となりました。

上記2盤と同傾向なのが、バッティストーニ/東京フィルハーモニー交響楽団のSACDハイブリッド盤です。上記両者の演奏を足して半分に割ったような演奏を最新録音で聴けます。
ローマ三部作 バッティストーニ
指揮:アンドレア・バッティストーニ
東京フィルハーモニー交響楽団
録音:2013年 サントリーホールでのライブ録音

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まずとにかく録音がいい。ライブ録音ですが、日本のオーケストラの技量も上がっている証明となるCD。バッティストーニはオーケストラを歌わせるのがうまい。またオケが破綻しないぎりぎりのテンポで攻めています。

これが有名なオーケストラ、日本ならN響か東京都響ならもっと・・しかし十分この曲を堪能できます。押しなべて優れた演奏ですが、優れている順でならべるなら「松」→「噴水」→「祭り」の順でしょうか。「祭り」で少しオーケストラの疲れが見える。三部作どれもそつない名演奏。足りないのはオーケストラ独特の色というか音色感。それは無いものねだりですが。祭は若いんだからもっともっと弾けてもと思いますが、迫力は十分。トスカニーニのようにカンタービレが美しい。

イタリアの指揮者ならではです。こんな良い演奏・録音が、日本でしか発売されていないというのは寂しい・・・しかし当分は日本国内では流通は続くと思われます。ハイレゾ時代の名盤といっても過言ではないと思います。

ここまでが比較的スタンダードな名盤。スタンダードに物足りなくなった方は、個性的なCDに目を向けましょう。小澤・シノーポリ・ガッティ盤などがありますが、上記3盤を聴いた後では物足りない。熱演・爆演でなければ。

そこでわが日本の熱き指揮者だった山田一雄/東京都SOの晩年のライブ盤をまず是非。正直アンサンブルが乱れるところが散見されますが、それを超えてすごい音塊がスピーカーから飛び出してきます。何度も繰り返して聴ける演奏ではないですが、ライブでオーケストラを聴く醍醐味ここにありです。
ローマ三部作 山田一雄
指揮:山田 一雄
東京都交響楽団
録音:1989年 サントリーホールでのライブ録音

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当時でもマークやフルネの薫陶を受けていた都響は上手い。このコンサートの客席はガラガラだったそうです。もったいない。特にローマの祭はアゴーギクも激しくトスカニーニ以上の壮絶なオケの鳴りっぷり。爆発前のゲネラルパウゼ、急激なアッチェレランド、トランペットが裏返ったり、トゥッティが揃っていないのもなんのその、演奏は前のめりに進み、ローマの祭の最後は「ここだけは揃えるぞ!」と都響が意地になったような最終和音とともに、ブラヴォーの嵐。


そりゃこんな演奏だったら最後の余韻も糞もなく言いたくもなる。熱さに溢れた演奏ですが、「噴水」の叙情性もしっかり出ています。どちらかというと「松」の印象が少し薄い位。ずっとストレートで強いパンチを喰らい続けると、その強さに麻痺して慣れてくる感覚といいますか。

80歳近くのおじいさんが指揮台で暴れているのに喰らいつくオーケストラ。指揮台で飛び上がって指揮するヤマカズさんの足音も録音に含まれています。プロのオーケストラが、まるでアマチュアオーケストラのように必死。噴水も美しく見事。ローマの松も壮大。録音も最新ではありませんが少しデッドな録音が功を奏し、下手な最新録音よりも迫力があります。しかしこのCDはおそらくすぐに廃盤になりそう。

そして最後に晩年のスヴェトラーノフの超スローな異色な演奏を。1999年のライブ録音です。じっくり腰を据えて、複雑なオーケストレーションを解きほぐすように目の前に提示してくれます。オーケストラはスウェーデンの楽団ということもあり非常にニュートラルな響きで、透明感溢れる優れた音色。数多く残されているスヴェトラーノフのCDの中でも格段に音質が優れているCDだとも思います。
ローマ三部作 スヴェトラーノフ
指揮:エフゲニー・スヴェトラーノフ
スウェーデン放送交響楽団
録音:1999年 ストックホルム ベルワルドホールでのライブ録音

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昔ソビエト国立交響楽団とのCDが爆演として有名で、録音が悪いにも関わらずヤフオクでプレミアがついている時期もありました。その演奏をオーケストラの破綻も無く良い録音で聴けるのがこの演奏。テンポは「すぎる!」という程スローです。しかし透明度の高いオーケストラの音色と録音のおかげもあり、混濁しがちな細部が良く見える。ただの爆演かと言えばそうではなく、良く聴くと各奏者絶叫することなく余裕を持って演奏しているのがわかります。トランペットなども80%程度の力で朗々と吹いています。「噴水」の演奏は非常に純度が高く美しいものの、遅いテンポで少し弛緩してしまっているような気もします。しかしスウェーデン放送交響楽団はいいオーケストラですね。

初めてこの曲を聴く方にはお薦めはしませんが、イタリア的・熱演ばかりのこの演奏に一石を投じるというか、違った角度から聴いてみたいという方にお薦めです。「へぇこんな音も楽譜に書かれているんだ」と驚きます。全体的に古くてゆっくり回るメリーゴーランドの様な演奏。このCDでの聴きどころはやはり「松」の最後の和音。このCDほどスヴェトラーノフ・クレッシェンドを見事に捉えた録音を私は知りません。


ホールが壊れるのではないかという程凄いクレッシェンド!3D画像みたいにスピーカーから徐々に目の前に音の塊が迫ってきて身体の芯まで突き刺さってきます。どこまで伸びてゆくんだろうこのクレッシェンドは・・・とただ唖然。上の映像よりも長く重い。

オーマンディや小澤、シノーポリ、ダニエレ・ガッティやパッパーノの録音がありますが、上記の盤と比較すると録音が悪かったり、演奏そのものも特徴が薄いような気がします。曲が外面的で華やかなオーケストレーションなので「ちょっとやりすぎ」位でないと物足りないというか差別化にならない曲だと思います。クラシック初心者にも、クラシック音楽のいろんな面が見れる曲ですし、興奮すること間違いなしです。お勧めです。

※当ページはシーサーブログ「クラシック 名曲・名盤求めて三千枚」からの引っ越しページです。徐々にこちらに軸足を変えていく予定です。 旧ページ:クラシック音楽 名曲・名盤CD求めて三千枚

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