現在のクラシック通の方であれば「パーヴォ」といえばヤルヴィなのでしょうが、私にとっては一世代前のシベリウス指揮者 パーヴォ・ベルグルンド(1929-2012)を思い浮かべます。亡くなられてずいぶん経つものの、未だにベルグルンドの遺した3種のシベリウス交響曲全集の録音は色褪せない魅力を放っています。
評判がいいのは最終となる3回目のヨーロッパ室内管弦楽団との全集で録音も優秀。2回目のヘルシンキpo盤と比べ、録音もオーケストラの技術も優れており、加えて精緻さが増しています。その変わりオーケストラの人数が少ないため、音の厚みはヘルシンキ盤よりも少し薄くなっている、また響きも少しインターナショナルな感じになっておりその辺が評価の分かれるところでした。私はともに所有し、その時々の気分によって聴き分けています。シベリウスの晦渋さを味わいたいときは、ヘルシンキ盤を手に取るときが多い。
随分と後になってから、ヨーロッパ室内管弦楽団との録音後に行われたヘルシンキでの演奏会の映像も発売されました。youtubeでもベルグルンドの指揮映像というのは少なく、大変貴重とは思いつつ正直なかなか手に取ろうとは思わなかった。録音はCDの方が良いに決まっているし、カルロス・クライバーのように指揮姿で魅せるような風貌でもありませんし。でもだいぶお値打ちになっていたし、今後入手困難になることは必至(指揮者も作曲家も地味だし人気があるとは思えないから)と思い重い手を上げた次第。
ジャン・シベリウス: 交響曲全集
・交響曲第1番ホ短調 op. 39
・交響曲第2番ニ長調 op. 43
・交響曲第3番ハ長調 op. 52
・交響曲第4番イ短調 op. 63
・交響曲第5番変ホ長調 op. 82
・交響曲第6番ニ短調 op. 104
・交響曲第7番ハ長調 op. 105
指揮:パーヴォ・ベルグルンド
ヨーロッパ室内管弦楽団
収録: 1998年8月23日-25日 フィンランディア・ホール(ヘルシンキ)
ヘルシンキ音楽祭におけるライヴ収録 総収録時間…230分
DVDだと2枚組、Blu-rayなら1枚です。私は車でも見たいのでDVD。
下記のyoutubeの抜粋映像を見て一瞬で虜になりこれは!となってしまいました。特に最後の7番の最終部分の指揮姿。
ベルグルンドは珍しい左利きの指揮者で、指揮棒を左手に持っています。ただ単純に拍を刻む今の指揮者と違い、曲全体の流れを優先した指揮ぶり。見始めると止まらくなりました。正直近寄りがたいと思っていたシベリウスの音楽が、この指揮ぶりと演奏模様を見ると一気に体に染みわたってきます。他の指揮者の奏でるシベリウス演奏とベルグルンドの演奏(特に音の引き出し方、また力点の置き方)の違いが明確にわかります。白眉は5番~7番。
カラヤン・マゼール・バーンスタイン、最近ではサロネンやヴァンスカなどシンフォニックに演奏することが主流ですが、ベルグルンドは全く違う。音を抑えるところ、クライマックスを置く位置、音の揺蕩わせ方など、久しぶりに身体の血と肉になる程楽譜を読み込み、それを楽団員に懇切丁寧に染み渡らせた音楽がここにあります。バーンスタインにとってのマーラーのように。楽譜の読み方からして違うということが映像だとはっきりわかります。解説にもある通りベルグルンド自身で改訂(楽器のバランス)を行っているようです。
CDと違い一部ミスやずれはあるものの、それすら生きた音楽の証。ベルグルンドもスタジオと違いライブでは熱くなっている。オーケストラも指揮者を信頼してついていっているのが本当によくわかります。映像の質は普通。なのでBlu-ray版を買う意味はあまりないような気がします。(私は車でも見たいのでDVDで購入)音質には全く不満がありません。CDの方が当然良いのでしょうが、映像のカメラ割も楽譜に沿っており視覚が音楽の理解に一役買ってくれるからです。久しぶりに優れた音楽+映像ソフトでした。CDは下記。
HMVやタワーでも値引き販売対象になっていることから、すぐに廃盤となることでしょう。またこれだけ渋い組み合わせなので再販も望めない。気になられた方は今のうちに入手されることをお勧めします。シベリウスは苦手という方に是非手に取っていただきたいソフトです。久しぶりに手にした逸品でした。
とはいえヘルシンキ盤のいい意味での近寄りがたさも捨てがたい。
※当ページはシーサーブログ「クラシック 名曲・名盤求めて三千枚」からの引っ越しページです。徐々にこちらに軸足を変えていく予定です。 旧ページ:クラシック音楽 名曲・名盤CD求めて三千枚
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