クラシック音楽レビュー

アンドレ・ワッツの無双 リスト 「パガニーニによる大練習曲」

アンドレ・ワッツ

ショパンと並ぶピアノ曲の作曲家であり名ピアニストだったフランツ・リスト。ショパンと違い自らのテクニックを披歴するための作曲であり、またワーグナーに繋がる程の伝統に依らない作風と音楽観はとっつきにくい。管弦楽曲「前奏曲」は当時としては異例なオーケストレーションと構成の楽曲で名曲とされていますが、「ファウスト交響曲」等と同様、私にはどうにも理解ができない。ショパン弾きはクラシックファン以外にも大人気になる一方、リスト弾きは数も少ないしクラシックファン以外には名を知られることが無い。作曲においては革命児であるものの、抒情性や名旋律が限られている。

リスト弾きとして有名なのは、ジョルジュ・シフラとかラザール・ベルマン、一部の曲であればウラディミール・ホロヴィッツやサンソン・フランソワ。ショパン弾きに比べると、リスト弾きとしての旬の期間はその超絶技巧ゆえ短い。黒人演奏家のアンドレ・ワッツもその一人でしょう。1980年代が旬だったリスト弾きです。コンサートは2010年代半ばまで行っており、それ以降は闘病のため教職に専念し2023年に亡くなられました。1946年アメリカ生まれ、1980年代は30代半ばという時期。
ワッツ バーンスタイン
ワッツはバーンスタインに見いだされヤング・ピープル・コンサートで共演、一躍時の人となりました。まだ人種差別激しい時期でもあり、黒人であること、19歳にも関わらず演奏したのがリストのピアノ協奏曲という超絶技巧が必要なことであること、それを全米の人気テレビ番組で放送したことなど当時としては非常にセンセーションな出来事でした。

CBSでバーンスタインとの協奏曲録音、EMIには得意なリスト作品の録音を残しています。録音状態・演奏共々ワッツの良さがあまり伝わってこない録音で非常に残念です。得意の「ラ・カンパネラ」は、EMIのもやっとした録音のせいで、彼の強い打鍵と冴えたテクニックを曖昧なものにしてしまっています。1986年にワッツは来日しており、この時にリストの「パガニーニによる大練習曲」を演奏しています。そのコンサートはNHKで放送され、私も見ていました。度肝を抜かれました。


それこそピアノが鐘のように鳴り響く演奏。またワッツの余裕を持って演奏する姿も未だに目に焼き付いて離れません。足を踏み鳴らし、最後のクライマックス前には高音部を右手で鳴らしながらステージ後ろを眺め「さぁ行くよ!」と言わんばかり。その後の追い込みとダイナミクスも見事。不思議とワッツの演奏にはテクニックをひけらかす感が無い。リストの音楽を表現するためにテクニックを駆使しているからでしょう。そのため弱音でも表情付けが細やかで丁寧。

いい音でその演奏を聴くことができないものかと長年探していました。youtubeでその時の映像が見られるのは嬉しい限り。ただ音はVHSからのアップロードなので限界があります。海外ではヘンスラーレーベルでも録音を行っていたようで、その中に「リスト・リサイタル」という1枚がありました。
アンドレ・ワッツ リスト・リサイタル

アンドレ・ワッツ リスト・リサイタル
・「巡礼の年」からヴァレンシュタット湖・イタリア
・ピアノ・ソナタ ロ短調
・ハンガリー狂詩曲第13番
・忘れ去られたワルツ 第1番
・パガニーニによる大練習(全6曲)
1986年 ドイツ、シュヴェツィンゲン城

AMAZON → アンドレ・ワッツ ピアノ・リサイタル
ライブ録音と記載があったので録音に不安を感じながらもAMAZONにて注文。これが予想を裏切る好録音であり、演奏も東京公演にも勝る完璧で無双の仕上がり。これを聴くとフジコ・ヘミングウェイは・・・・、キーシン、ラン・ランが弾こうが物足りなさを感じてしまいます。聴衆ノイズも少ないことから考えると、恐らく放送用の録音ではないかと思われます。

パガニーニによる大練習曲。パガニーニが作曲したヴァイオリンの超絶技巧曲の主題をもとにしたピアノ変奏曲。5曲は24のカプリースの主題、有名なラ・カンパネラのみヴァイオリン協奏曲からとった主題によるもの。練習曲という名は名ばかりの超絶技巧が散りばめられたピアニストの究極奥義的な曲です。ただよく聴くと超絶技巧もさることながら、ピアノからこんな音色が出るんだと感心することも非常に多い。但し、それはピアニストが完璧に弾きこなせることが条件で、それに加え音の重ね具合と音がコントロールできればの話。ブレンデルやアラウの録音ではそういった部分はあまり感じられない。

ワッツのこのCDは、弱音から鐘の音が鳴るような高音まで全てマイクが拾っています。イヤホンで聴くと、右手と左手の強弱を巧みに使い分けて単調にならないよう、技巧的だけに聴こえないように楽譜をよく読みこんで弾いていることがわかります。勢いで弾ききってしまうような演奏とはちょっと違います。ホールや録音のせいか、ピアノの芯がくっきりとしておりこれでもかというほど各音符がしっかりと聞こえます。

あとペダリングもうまいのでしょう。他のピアニストと響き方が違います。技巧を見せつけるだけでなく、アゴーギクも多用し、ただでさえ華やかな曲をよりダイナミックにしています。こんなテクニックが長く持つはずがないわけで、ワッツの名前は1990年代以降は耳にしなくなってしまいました。日本には頻繁に来日していたようですが、以後は話題にもNHKの放送にもなっていないと思います。

彼のガーシュインはいいに決まっている。グルーブが流石です。

こっちは見かけても買わない方が無難です。
アンドレ・ワッツ EMI CD

リスト人気が無いのは日本だけかは不明。ただこの完璧なリストのCD1枚だけでも、作曲家リストの凄さとアンドレ・ワッツというピアニストの当時の無双っぷりを堪能できます。あまり知られていないのが残念な1枚の一つです。

※当ページはシーサーブログ「クラシック 名曲・名盤求めて三千枚」からの引っ越しページです。徐々にこちらに軸足を変えていく予定です。
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