ドイツの名指揮者 カール・シューリヒト(1880ー1967)は、晩年ウィーンpoと録音したブルックナーの交響曲第8番・9番で有名です。辛口端麗な演奏を特徴としています。テンポは晩年まで早め、初めからフィナーレまでストレートに音楽をスマートに運びます。私が最初に聴いたのはウィーンpoとの「未完成」と「ハフナー」がカップリングされた1枚のLPでした。高校生ぐらいの私には、少しそっけない演奏でそこまで感動した記憶がありません。
その後、シューリヒトのライブ録音が次々と発掘され、ライブではテンポは速いのは一緒だが、極端なアゴーギクを行うことも多いことで彼の別の面を多く聴けるようになりました。基本そっけないように見える中にも厳格なリハーサルに基づいた微妙なニュアンスと楽器バランスを整えた演奏は、今では聴くことができない音です。ヴァントに似たような感じではあるものの、シューリヒトの音楽にはどこか微笑みがあります。名声には背を向け、自分の信じる音楽をコツコツとスイスとドイツで積み重ねてきた彼の音楽はまさに通好みです。

シューリヒトはベートーヴェンも得意としていてモノラル時代EMIに交響曲全集を録音しています。オーケストラはパリ音楽院管弦楽団。EMIはこの少し後にステレオでクリュイタンスとベルリンpoと同全集を録音しています。どう考えても組み合わせが逆ではないかと言われていますが、当時の録音にかける費用面のこともあったのかと思われます。シューリヒトの全集は、スタジオ録音なのでいつも通りの早めストレート、ダルなパリ音楽院管弦楽団をぎゅっと締め上げた演奏で全集全体としていい出来ではあるものの、優秀とは言えモノラル録音であるため徐々に忘れられつつあります。
その中で6番「田園」に関しては、ワルター/コロンビア交響楽団の演奏と並び後世に語り継がれていてほしいと思っています。正直、私は「田園」が苦手。ベートーヴェンの交響曲の中で一番聴かない。最初に買ったLPは1960年代のカラヤンとベルリンpoの録音で、耳なじみはいいものの颯爽とサクサク進む音楽にどこか失望してしまい、それ以来というものワルター盤ですらそうは聴きたいと思えません。
そんな中、私にとって「田園」を唯一全曲止めずに聴き通せる演奏は、シューリヒトとパリ音楽院管弦楽団の録音です。全集の中でも評判の良い演奏です。これも速い演奏ではないかと思われるでしょう。ただよく聴くと、ベートーヴェンの曲の中で内容が薄く感じられるこの曲の品格を高めているような演奏です。

ベートーヴェン
交響曲第6番ヘ長調作品68「田園」
指揮:カール・シューリヒト
パリ音楽院管弦楽団
録音:1957年4月30日、5月2,6日(第6番)
録音場所:パリ、サル・ワグラム
モノラル(セッション)
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第1楽章第1主題から少し趣が違います。通常は軽くスタッカート気味で演奏されるこの主題を少しレガート気味に演奏しています。そのため軽い主題に重みがついていると思います。これは全体の主題の扱いに言えることで、最初聴いたときはかなり違和感を感じました。ただこの主題を意図的に軽く弾ませないようにした演奏を聴いた後、他の演奏を聴くと明らかに「軽く」感じます。また意外にもフランスの楽団にしては低弦楽器の音がしっかりと聞こえます。但しドイツの楽団のように音圧で聴かせる音ではなく、ふんわりとした柔らかでヴァイオリンを邪魔せず包み込むような音であり、全体に厚みを持たせています。
「田園」は耳なじみよく軽快な主題が多いため、初心者向きな音楽ではあるものの、それ故に軽い。苦悩するベートーヴェンらしくない。多くの演奏・録音は魅力的な主題になると自然とテンポがすこし落ちる。そうするとロマンティックな表現にはなる反面、流れがすこし悪くなりムーディーな音楽なだけになってしまう。特に第1・2・6楽章はその傾向が強い。シューリヒトの演奏は確かにさらさら流れているように聴こえます。ただ魅力的な主題前後でテンポを変えず虚飾を排し進めるため、愉しい旋律の中にも厳格さが感じられるのです。
また陽気な第3楽章、オーケストラの壮大な鳴らし場所の第4楽章「嵐」でも基本スタンスは同じ、前者では足並みがずれないように眼光を光らせ踊りを監視、嵐でも雷ガンガン落とさず竜巻舞わすかのようにして威力的でない。そしてパリ音楽院管弦楽団特有の田舎臭い音色をうまく生かしています。当時のパリ音楽院管弦楽団の魅力はアンサンブルはそこまで優秀ではない。アンセルメやクリュイタンスとのモノラル録音を聴くとずれずれで、やる気が無く管楽器は好き勝手に吹いているのではないかと思わせる録音もかなりあります。
珍しいシューリヒトの指揮姿の映像。ハフナー第4楽章。
シューリヒトのリハーサルはかなり厳格で、指揮台のスコアには付箋や書き込みだらけでウィーンpoの面々はかなり苦手だっと言われています。さしものパリ音楽院管弦楽団もかなり絞られたのか、この交響曲全集ではだらけた音になっていません。しかし押さえつけられてオーケストラの魅力をなくしているわけでもない。そこがシューリヒトの名人芸です。田園の第2楽章は、この全集の白眉といっても過言ではないと思います。
レーベルは違いますがDECCAに録音したベートーヴェン第1番・2番(モノラル)、晩年1965年のライブ録音であるフランス国立放送管弦楽団の第9(ステレオ)など、シューリヒトのベートーヴェン録音は優れたものが残っています。

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巨匠時代の強烈な灰汁・個性は無いのかもしれません。一見自然体のように見えるストレートな音作りの中に、綿密に計算しつくされた解釈、しかしそれを聴いたものに感じさせないという名人芸はその後後継者がいないように思えます。小澤征爾さんが見た「動きは少ないが、ぎょろりとした眼光でオーケストラを統べる」カール・シューリヒトのベートーヴェンはもっと評価されるべきです。
ちなみに田園を極限まで歌わせない演奏としては、インマゼールとアニマ・エテルナの録音があります。ひたすらに美しいし透明度が高い。ただ透徹過ぎるような気がします。
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