先日亡くなられた日本の名ギタリスト 山下和仁さん。その比類なき才能を語るうえで、私はどうしても パイヤール指揮による《アランフェス協奏曲》 を外すことができません。若かりし頃は圧倒的な技巧でムソルグスキーの「展覧会の絵」やストラヴィンスキーの「火の鳥」を自ら編曲・録音していたことから、どこか技巧を前面に押し出すギタリストの印象が強いかもしれません。
しかし、私が山下さんのギターを初めてFMで聴いた時にはその表情豊かな音色にも驚嘆したものです。その時の演奏曲はバッハの無伴奏パルティータ3番。特にカヴォットでは愉しい旋律にも関わらず、涙した記憶があります。円熟期に録音された「アランフェス協奏曲」の録音には、単なる名演という言葉では収まりきらない、音楽の奇跡のような瞬間が刻まれています。

ロドリーゴ アランフェス協奏曲
ギター:山下和仁
指揮:ジャン=フランソワ・パイヤール
パイヤール室内管弦楽団
1986年録音
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山下さんの音は、ただ巧く美しいだけではありません。一本一本の音がまるで光を帯びて立ち上がり、弱音は息をのむほど繊細なのに、強奏では凛とした芯がある。自由に演奏して、伴奏のオケをここまで必死にさせるがギター奏者は例がないし、アランフェスをここまで刺激的に演奏する人は今後現れないと思います。
快活に始まる第1楽章のギターのソロから一気に山下さんの早いテンポと指捌きの斬れに驚きます。また音の滑舌のいい。昔山下さんがコンサート評で「この曲を完璧に弾かれるのを初めて聴いた」と言われたのも納得。オーケストラがそのテンポに必死に喰らいついていきます。そこは流石にパイヤールで、乱れずかつ上品についていきます。
驚くのは山下さんのギターの音量。ギターの音量は小さくオーケストラに負ける(それが例え録音やマイクで加減しても)。山下さんのギターの音は太く音量も大きい。しかも一気呵成にテクニックを誇示するだけでなく、音色変化も絶妙に変化させていきます。巧いの一言。ギター界のハイフェッツの様。
一度これを見てください。
第2楽章も通常は情緒豊かに弱めに歌わせるのが一般的ですが、ここでも音の1音1音が明確。オーケストラの音量の方が抑えすぎじゃないかと思わせるほど。でもこれだけ強く指でギターを弾いているのに音には濡れた感じがある。名旋律を中間部で深々と響かせ歌うところ、長いソロでの低音から高音に響かせ方も圧倒的。後半に向けて熱を帯びていくのも計算されているのでしょうが、芝居がかっていなくていい。ポピュラーな名曲をポピュラーに演奏しようという気はさらさらない。
第3楽章は第1楽章をさらに上回るテンポの早さ!前2楽章に比べ少し聴き劣ると言われる最終楽章ですが、それを補うに余りある山下さんの快速テンポと技巧のキレで、まるでそんなことは無いと闊歩していくかのよう。ここまでくると流石にパイヤール室内管弦楽団もついていくのにかなり必死な感じがします。そのスリリングさが堪らない。実際、1990年代に日本で海外オーケストラ(まぁ2流)とこの曲を演奏した際にはオーケストラがついていけず中間部でアンサンブルが崩壊寸前になったとの逸話もあります
古楽器演奏黎明期に活躍したジャン=フランソワ・パイヤールの指揮は、そのギターを包み込みながらも決して覆い隠さず、対話するように寄り添うのが魅力です。アランフェス協奏曲が本来持つスペインの香りと、パイヤールらしいフランス的なエレガンスが見事に溶け合い、作品に新しい色彩を与えています。録音のクリアさとバランスの良さも特筆すべき点です。ギターの細部まで自然に聴こえ、オーケストラとの距離感も絶妙。半世紀近く経った今でも、驚くほど瑞々しい。
このCDはギターを用いたクラシック音楽で一番ポピュラーな名曲であり、ギター音楽の魅力を初めて知る人にも響く。クラシックを聴きなれた人にとっては、アランフェス協奏曲の新しい魅力を発見できる。雑誌の名曲名盤ではイエペスやブリームの演奏が未だにトップに君臨し山下盤はまず無視されています。
この曲にこの解釈と演奏は異端だからかもしれません。スペイン情緒や叙情性は少し欠ける。しかしこの曲をこれほど面白く聴かせてくれる演奏と録音は無いなと何回もリピートして聴いています。今一度日本が世界に誇るギタリスト 山下和仁さんを再評価して欲しい。バッハの無伴奏ギター編曲版は3度録音していますが、2度目が録音も良いし演奏も深くお薦め。

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