クラシック音楽レビュー

追悼 M・T・トーマス オルフ「カルミナ・ブラーナ」

三大マイケルの最後の一人、マイケル・ティルソン・トーマスが亡くなられました。(後の二人はジャクソンとジョージです)個人的に現代で一番好きな指揮者でした。サンフランシスコ交響楽団との一連の録音に感銘を受け、一時期過去のCDをAMAZONで買い漁った時期もありました。ピリオド演奏などの演奏様式の変化に左右されない全くぶれない音楽スタイル。解釈は自然体で作為を感じさせず、オーケストラを巧みにコントロールして最大限のパワーを発揮させることに長けていました。何より譜読みの確かさとリズム感が本当に素晴らしかった。
MTT
ゲイであること、アメリカでは大活躍の一方ヨーロッパ楽団で重責を担わなかったこと、ドイツ古典派の本流のCDが少なくそこで評価が高く得られなかったことで、能力に見合った評価がされていないことは残念です。残された録音でもガーシュイン、バーンスタイン、マーラー、コープランド、ストラヴィンスキーの評価は高い一方、晩年のベートーヴェンやシューマンの交響曲録音の評価はそれに比べ劣る。重心が低い音楽作りをする人ではないし、常に冷静でコーダで芝居気を出すような演奏スタイルで無かったことも一因でしょう。ただ残された録音はどれも質が高い。

亡くなった一報を聞いて、棚にあるマーラーなどの録音を改めて聞き直したりしていました。その中で異彩を放つのがMTT初期の録音であるオルフの「カルミナ・ブラーナ」。デビューしたてで29歳の時の録音です。発売以降しばらくはかなり評価が高かった記憶があります。CBSソニーの当時の録音方式には少し時代を感じますが、クリーブランド管弦楽団・合唱団を縦横無尽にコントロールし挑戦意欲に満ちた演奏に久しぶりに感動しました。
MTT カルミナ・ブラーナ

オルフ「カルミナ・ブラーナ」
ジュディス・ブレゲン(ソプラノ)
ケネス・リーゲル(テノール)
ピーター・ビンダー(バリトン)
クリーヴランド管弦楽団合唱団&児童合唱団
合唱指揮:ロバート・ペイジ
指揮:マイケル・ティルソン・トーマス
クリーヴランド管弦楽団
録音:1974年8月5,6日 1974年9月4日

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この「カルミナ・ブラーナ」は、CBSソニーの“クアドラフォニック(4ch)録音”という当時最先端の方式で制作され、圧倒的な臨場感と鮮烈なサウンドとしても有名。オーケストラに隠れあまり聞こえないピアノが良く聴こえ、ピアノを打楽器的に使用していることもわかります。クアドラフォニック録音とは、前後左右の4つのスピーカーで再生する初期のサラウンド方式で1970年代前半にCBS/Sonyが積極的に導入していました。ライブ会場の包囲感を再現することを目指した革新的技術で
・合唱が前後左右から迫る包囲されるような音場
・打楽器の爆発的エネルギーが空間全体に広がる
・オーケストラの層が立体的に浮かび上がる
が特徴。でも実際にはコンサート会場とは違う響きになってしまっているところが面白いところ。


1974年当時、まだ30歳前後のMTTは、すでに鋭いリズム感と現代的な感性を持つ指揮者として注目されていました。若き日にグラモフォンに残した「春の祭典」同様
この録音では、
・鋭く切り込むテンポ設定
・リズムのキレと推進力
・オルフの“原始的な躍動”をストレートに描くアタックの強さ
が際立ち、後年の円熟したMTTとは異なる、若さゆえの火花の散るような勢いが刻まれています。目立つのはテンポの自在さ。抒情的な曲では止まってしまうギリギリまでテンポを落としたり、一気にギア全開でかっ飛ばしたりとやりたい放題。オケも合唱もテンポに乗り切れない部分すらあります。

ただそこはジョージ・セル時代の伝統を引き継いだクリーヴランド管で鉄壁のアンサンブル、透明度の高い響き、複雑なリズムの正確な処理は流石。オルフの音楽に必要な機械仕掛けのような精度を完璧に実現しています。今こんな演奏を指揮者がオーケストラに求めても従ってくれないと思います。また実際に弾きこなせないのではないかとも思われるくらい、MTTは自分の脳内にある音楽を音化しようと戦っているのがわかります。


ヨッフムなどのドイツ本流の演奏と違い、重心の低さなどは無く、カルミナ・ブラーナの各曲の表情をテンポと洗練された音色で完璧に色分けして構成し直したような演奏です。それも全体のバランスは損なわず。そのため今でも賛否両論はあるかと思われます。ただこれほど刺激的な同曲異盤は未だ存在しない。MTTと言えども晩年に録音しても、このような演奏にはならなかったでしょう。刺激的なカルミナをアグレッシブに解釈した名盤として今後も語り継がれてほしい1枚です。


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私は晩年に録音されたサンフランシスコ交響楽団とのシューマンも好きです。その後、ブラームスとのツィクルスをコンサートで行っており、NHK-FMで放送された第4番が素晴らしかったので、そのうちCDでも出るかと思ったのですが、未だ叶わず。録音残っていないのでしょうか?

脳の病気になるまではグッドルッキングで若々しさに満ちていたMTT。天国でパートナーと再会して幸せであればいいなと、彼の残した録音を聴きながら思います。最近は追悼ばかりしているのも悲しいものです。

※当ページはシーサーブログ「クラシック 名曲・名盤求めて三千枚」からの引っ越しページです。徐々にこちらに軸足を変えていく予定です。 旧ページ:クラシック音楽 名曲・名盤CD求めて三千枚

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