クラシック音楽レビュー

カーゾンとセルのモーツァルトピアノ協奏曲第23・27番

イギリスの往年の名ピアニスト クリフォード・カーゾン(1970-1982)。いかにも神経質そうな風貌。頭で考えた音楽を作り出しそうで、ブレンデルと雰囲気が似ています。カーゾンの演奏は雑味なくまた大言壮語することがない、ピアノの音は若干硬質で芯がありながら、玉を転がすようなタッチで美音を奏でるのが特徴。地味といえば地味。シューベルトとモーツァルトでの評価が高く、一部の方には未だに根強い人気があるピアニストです。

カーゾンのCDを聴いてみるかと思ったのは、中野雄さんが著書でジョージ・セルおよびウィーンpoと録音したモーツァルトのCDを絶賛していたためです。モーツァルトのピアノ協奏曲第23番と第27番のCDは中々満足する演奏が無い。27番はそもそも曲が少し苦手でもあります。愉悦感がもう薄れていて聴くのが辛いと感じることも。ではどんな演奏だったかというと。

モーツァルト
ピアノ協奏曲23番イ長調
ピアノ協奏曲第27番変ロ長調
ピアノ:クリフォード・カーゾン
指揮:ジョージ・セル
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1964年録音

AMAZON → カーゾン DECCA録音4CD

輸入BOXで中古で買いました。国内盤と音質は「雲泥の差」があるとのこと。真偽は聴き比べていないので不明です。タワーレコードさんはリマスタリングして単売しているみたいです。

結果は上々でした。意外に良かったのは録音とセルの伴奏。ウィーンpoはセルが嫌いだったそうですが、この頃のウィーンpoにありがちな雑さが無い。よくセルに締められています。また録音も少しオーケストラ寄りで当時のウィーンpoの魅力を堪能できます。カーゾンのピアノと合っているかと言えば少し祖語があるような気もしますが。元気ではつらつとし過ぎるきらいが若干ある。カーゾンのピアノは純粋素朴で無垢ですから。

第23番は今まではハイドシェックとヴァンデルノート/パリ音楽院管弦楽団のCDが好きな演奏でしたが、今聴くと録音がぼやけ気味、パリ音楽院管弦楽団の音色も捨てがたいのですがアンサンブルの雑さが目立つ。ハイドシェックのピアノは愉悦感とファンタジー満載でいいのですが録音が捉え切れていない。カーゾンの演奏はタッチが柔らかく、第1楽章の晴れやかさ、第2楽章の静謐な祈り、第3楽章の軽やかな舞曲と特徴をよく捉えている。


物足りないのはハイドシェックにある「おっ」と思うような驚きが無い。全体的にシューベルトの演奏スタイルをモーツァルトに生かしたような音楽作りで詩情を優先、第3楽章はもう少し跳ねてもとか溜めたりテンポや音色を変化させてもと思います。でも意外とそれをすると全体のバランスが崩れ逆に愉悦感が薄れてしまうのがこの曲のCDに多い。バレンボイムの新盤のようにダイナミック過ぎても意外と駄目だったし、これが模範解答なのかもしれません。

第27番は透明で純白に演奏されると辛いと最初に書いたのですが、このカーゾンの演奏を聴いてこれなら聴き続けることができると。セルの伴奏が神妙に過ぎず透明な空気の中に旋律をそっと置くような伴奏、カーゾンも他のピアノ協奏曲と同じように淡々と弾いていくので暗さが無い。まだモーツァルトの愉悦感の残香がある。特に第1楽章の中間部でヴァイオリンが湧き上がるような旋律で掛け合う部分はこうでなくてはという程明確に強く弾いてくれるセルの潔さ。カーゾンも繊細になりすぎず曲の良さをそのまま提示してくれる。

第2楽章も同じスタンス。自然に純白の美しい響きが浮き立つ。暗さが垣間見えますが、生々しい美しさ・音色美の方が勝る。ウィーンpoと名プロデューサー カルショーなどの録音陣の腕が冴える。これだけ音の少ない楽章だからこそ、飽きさせることなく曲の良さを部屋に届けようという気概と矜持を感じます。カーゾンの下手に溜めを作ったりしないストレートな指運びも素晴らしい。

第3楽章になるとセルとカーゾンが少し跳ねる。これはいい。まだ前に進もうとするモーツァルトの音がします。カーゾンもタッチをスッと切る感じがあるので音楽に緩みが無い。セルの伴奏は相変わらず歯切れがいい。クリーブランド管弦楽団だったらもう少しドライになりすぎていたでしょうが、セルに反抗するようなウィーンpoの自分たちの音を出してやるという軽い反抗もあるようなところがいい隠し味に。木管楽器がやはり効いている。暗くない常に明るい。

この録音は2003年までカーゾンの意思によりお蔵入りになっていた音源だったそうです。解説によると遺族の方のOKが出て陽の目を見たとのこと。不満足だったのかその後に同じDECCAにケルテスやブリテンとも再録音しています。


セルもカーゾンも潔癖気味な演奏スタイルなので、オーケストラとピアノが喧嘩せず
・派手さはないのに、深い満足感がある
・ピアノとオーケストラの「理想的な対話」が聴ける
・録音の透明度が高く、今聴いても驚くほど美しい
・モーツァルトの本質(優雅・清潔・自然)がそのまま形になっている
という、特段特徴がないのが特徴でウィーンpoの音色とうまく溶け合った曲を素直に堪能できる演奏です。カーゾンというピアニストを見直すきっかけとなるCDではありましたが、お気に入りのピアニストにはならなかったのが正直なところ。録音と伴奏と曲の相性が絶妙にあったのだろうなと思うCDでした。

カーゾンのCDにも爆演があります。クナッパーツブッシュとのブラームスのピアノ協奏曲第2番のライブ録音。ミスタッチだらけだし、叩きつけるようなピアノ、加えてORFEOの悪名高きリマスタリングでした。そっちの録音の方がお蔵入りにすべき演奏に思えます。
AMAZON → カーゾン ブラームスライブ

※当ページはシーサーブログ「クラシック 名曲・名盤求めて三千枚」からの引っ越しページです。徐々にこちらに軸足を変えていく予定です。 旧ページ:クラシック音楽 名曲・名盤CD求めて三千枚

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