クラシック音楽レビュー

掘り出し物のビシュコフとWDRsoのヴェルディ「レクイエム」

ロシア出身の指揮者 セミヨン・ビシュコフ。1952年生まれのロシア出身で、古くからのクラシックファンであればムーティの代打でベルリンpoを指揮し大成功、ショスタコーヴィチの「革命」を即録音した指揮者として記憶にあるのではないでしょうか?それは確かに素晴らしい演奏で、フィリップスでベルリンpo、その後音楽監督を務めたパリ管弦楽団とCDを作成しました。それからはCD不況も重なりCDでは一時期あまり名前を聴かなくなりました。その後、ケルンWDR交響楽団の首席指揮者を務め、現在はチェコpoで首席指揮者・音楽監督を務め録音も活発化したことで、再評価されるようになっています。最近はそのコンビでマーラーの交響曲全集が発売されました。

ヴェルディの「レクイエム」の録音は、1997-2010年の間務めたケルンWDR交響楽団時代にじっくりと腰を据えて制作されたCD集の中の1枚。それに含まれる「ローエングリン」、「エレクトラ」などのオペラも今どき珍しくライブ録音ではなくセッション録音です。しかもレパートリーとしてライブを重ねた上、最終形として録音したもので完成度が極めて高い。しかも全てハイブリッドSACD。指揮者もオーケストラもそこまでメジャーではないためか、あまり知られていない名録音集です。そして演奏も素晴らしい。ビシュコフの最盛期はWDR時代ではなかったかと思っています。

ヴェルディ レクイエム
ヴィオレッタ・ウルマーナ(S)
オリガ・ボロディナ(A)
ラモン・ヴァルガス(T)
フェルッチョ・フルラネット(Bs)
NDRハンブルク放送合唱団
トリノ・テアトロ・レッジョ合唱団
WDRケルン放送合唱団
指揮:セミヨン・ビシュコフ
ケルンWDR交響楽団
2007年11月12-16日 ケルン フィルハーモニー

AMAZON → ビシュコフ WDR交響楽団CD集

近年の録音の中でも静かな威厳と燃える劇性が見事に同居した、非常に説得力のある名盤です。劇場的なドラマと宗教音楽の厳粛さを、極めて高い次元で融合させた演奏で、ヴェルディの音楽が本来持つオペラの炎をしっかり燃やしながら、同時に祈りの静けさを深く掘り下げる—その両立がこれほど自然に実現している録音は多くありません。

ビシュコフは若いころから感情を煽り立てるタイプではなく、音楽の流れを大きくつかみ、構造を明晰に描くタイプ。そのため「怒りの日」の爆発力は圧巻でありながら、決して粗暴にならず、緊張感の持続が見事。静謐な部分では、息を呑むほどの透明感があります。ケルンWDR交響楽団はドイツのオーケストラらしい重心の低い響きが特徴。それがヴェルディの音楽に独特の威厳を与ているように思われます。金管の咆哮は鋭く、弦は深く、木管は愛らしい響きを奏で、合唱は圧倒的な密度で迫ってくる。バランスが非常に整っています。特に《Tuba mirum》の迫力は、近年の録音でも屈指のクオリティ。

また録音のバランスが非常に優れており、空間の広がりと声・オケの分離が秀逸。ヴェルディのレクイエムではなかなか演奏と録音のバランスがいいものが少ない。このビシュコフ盤は、ソリスト、合唱、オーケストラの距離感が絶妙で、巨大な音響空間の中に身を置くような臨場感があります。また低音の沈み込みが深く、クライマックスの重厚さが圧倒的に部屋に響きます。ヴェルディのレクイエムでは、グランカッサの迫力とソリストと木管楽器の絡み合い、静かな合唱部分など録音に幅広い対応力が求められています。この録音は理想的な録音バランスで曖昧さもない。

このCDを聴いてから、ムーティのCD(スカラ座およびシカゴ響との録音)は棚から消えました。残っているのはトスカニーニ(BOXだからというのもある)とこのビシュコフ盤のみ。正直未だに一番お気に入りの演奏は、1995年にムーティがミラノ・スカラ座と来日した折のNHKの映像録画。NHKホールのデッドな環境もあり、彼のCDよりも迫力がダイレクト。当時血気盛んさと落ち着きのバランスが整いつつあったムーティの力の入った指揮は素晴らしいものでした。

ビシュコフは不思議と若いころから気になっている指揮者で、ベルリンpoと録音したチャイコフスキー「くるみ割り人形」全曲のCDは時折聴きますし、好きな演奏の一つです。バレエ音楽としてはシンフォニックすぎるきらいはありますが、ここまでどっしりと「くるみ割り人形」を堪能させてくれる、またベルリンpoの精度の良さを引き出しているCDはそんなに無い。
AMAZON → ビシュコフ「くるみ割り人形」


このWDR時代のハーンとのグラズノフの映像好きなんです。

しかし本当にこれは掘り出し物のCDと演奏でした。このBOXは全曲録音と演奏精度が高い。ビシュコフはオペラも得意だし、後期ロマン派の音楽に本当に向いている指揮者です。これでベートーヴェンやブルックナーが得意であればもっと人気が出るのでしょうが勿体ない。今後のさらなる円熟に期待したいものです。正直、マーラーはもういいです。

※当ページはシーサーブログ「クラシック 名曲・名盤求めて三千枚」からの引っ越しページです。徐々にこちらに軸足を変えていく予定です。 旧ページ:クラシック音楽 名曲・名盤CD求めて三千枚

CTAサンプル

これはCTAサンプルです。
内容を編集するか削除してください。