クラシック音楽レビュー

渋いヘルシャーのドヴォルザーク「チェロ協奏曲」

ルートヴィヒ・ヘルシャー(1907~1996)というドイツの名チェリストがいます。1990年代という没年にかかわらず、レコード録音は少ない。残された録音は1950~60年代前半位のものしかないので、現在は忘れられたチェリストの一人です。マイスキーのような派手さ、ロストロポーヴィチのような圧倒的な表現力で勝負する対応ではなく、渋めの響きと実直な表現が特徴なのもマイナーな理由でしょう。

ヘルシャーの隠れた名演の一つにカイルベルトと組んだドヴォルザークのチェロ協奏曲の録音があります。中古レコード市場ではオリジナルのテレフンケン盤は高価に取引されています。CD復刻されることも稀で非常に入手難。アーベントロートとも録音してますがそちらはモノラル。

現代ではどこか技巧的で脂ぎった演奏が多い名曲ですが、渋い指揮者と渋いチェリストとドイツのローカル管弦楽団が組んだこともあり実に男臭く田舎臭い。チェコ風味は薄く、ドイツ古典のような響きが一貫してます。録音は古いものの「馥郁たる響き」に満ちた音楽的な演奏を堪能できます。絶妙な塩気を感じるその演奏は、何度も何度も嚙み締めたくなり、手が何度も伸びます。

ドヴォルザーク チェロ協奏曲ロ短調
チェロ:ルートヴィヒ・ヘルシャー
指揮:ヨーゼフ・カイルベルト
ハンブルク国立管弦楽団
1958年 ステレオ録音

AMAZON → ヘルシャー テレフンケン録音集

この録音には、静かに深く心を掴む名盤と言いたくなる特別な魅力があります。巨匠たちの名演がひしめく同曲録音の中でも、唯一無二の個性と気品がある。フルニエとは違う別の気品でヘルシャーの音は、派手さとは無縁。しかし、一音一音が驚くほど丁寧で、まるで光を当てたように輪郭が美しい。
・ヴィブラートを過度に揺らさず、清潔で凛とした音色
・フレーズの語り口が誠実で、聴くほどに深い味わい
・感情を押しつけず、自然に心を満たしてくれる静かな熱がある
この協奏曲を歌い上げるのではなく、語りかけるように音を紡いでいく。愛しむように演奏するという言葉が相応しい。


こちらも忘れられた指揮者カイルベルトは、ドイツ音楽の正統を体現する指揮者。この録音でも、骨太で堂々としたオーケストラの響きを築き上げています。余計な演出を排した、揺るぎない構築力でチェロを包み込むようなスケールの大きさでドヴォルザークの民族的な情緒を、深い陰影で描き出しています。がオーケストラの響きもあいまってドイツ的。ヘルシャーの渋い音色のチェロと、カイルベルトの重厚なオーケストラ。この対比と調和が、他の録音にはない魅力を生んでいます。

録音は1950年代テレフンケン録音らしく、チェロがやや前面に、オーケストラが少し奥に収録されています。これが実に良い塩梅で、ヘルシャーの美しい音がクリアに聴こえ、この曲と演奏の本質が際立つ。この演奏は、いわゆる決定盤とは違うかもしれませんが、だからこそ聴く者にどこか光るものを感じさせてくれます。


聴けば聴くほど沁みてくる、通好みの宝物のような一枚。ドヴォルザークの名協奏曲の別の顔を見せてくれる名演です。これでヘルシャーに興味を持った方は、これまたドイツの名女流ピアニスト エリー・ナイと録音したベートーヴェンのチェロ・ソナタ全集をお聴きになるとよいかと思います。

※当ページはシーサーブログ「クラシック 名曲・名盤求めて三千枚」からの引っ越しページです。徐々にこちらに軸足を変えていく予定です。 旧ページ:クラシック音楽 名曲・名盤CD求めて三千枚

CTAサンプル

これはCTAサンプルです。
内容を編集するか削除してください。