スイスの名指揮者 ペーター・マーク(1919-2001)も忘れ去られそうな存在で寂しい。ピアノをアルフレッド・コルトー、指揮者としてはエルネスト・アンセルメとヴィルヘルム・フルトヴェングラーに師事となんとも羨ましい環境で青年期を過ごし、DECCAでの録音も好評でスター指揮者となるかと思いきや、半ドロップアウト。2年間香港で禅修行に励み音楽界に復帰、ただイタリアやスイスの地方オーケストラなどで細々と音楽活動を行い、有名レコード会社への録音はほぼ行いませんでした。幸い日本とは縁があり、若き頃は日本フィル、晩年は東京都交響楽団に頻繁に客演していました。気を衒わずオーケストラを巧みに歌わせ、間のとり方もうまく内声部も丁寧に響かせ作品を新鮮に輝かせるのが得意な指揮者といういかにも通好み。
特にモーツァルトとメンデルスゾーンの演奏を得意とし、ロンドン交響楽団との交響曲第3番「スコットランド」(1960年)が名盤として残っています。DECCAの優秀な録音含め確かに素晴らしい。ただ晩年に都響に客演した折のライブ録音はさらに素晴らしいと思います。オーケストラにヨーロッパ的な響きが欠けているとはいえ、技術的には遜色なくより重心低く時に荒々しさを持つこのライブ録音は、何度聴いても飽きないしマークという指揮者の凄さがすぐに理解できる名盤です。何度聴いても飽きないし、何度も感動してしまう不思議な演奏。

モーツアルト
交響曲第38番「プラハ」
メンデルスゾーン
序曲「フィンガルの洞窟」
交響曲第3番イ短調「スコットランド」
指揮:ペーター・マーク
東京都交響楽団
1993年 東京文化会館でのライブ録音
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マークはこの曲を得意とし、3度この曲を録音していますが、個人的に一番優れていると思うのはこのCDです。東京都響の質もこの時にはもう相当高かったです。今のインバルとの演奏レベルより少し劣るくらいじゃないでしょうか。しかし残念ながらクレンペラーの演奏と比べると管楽器+αの香りは感じられません。
しかし、それを補うくらいのライブ特有の熱気があり、ぎりぎり崩れないヴァイオリンのアンサンブル、それを支える低弦の深い響きとティンパニの強打とクレンペラーに欠けていたものがこの演奏にはあります。特に第1楽章中間部以降は指揮者・オーケストラともエンジンが全開になり、メンデルスゾーンというよりはブラームス的な迫力です。
年代を考えるともう少しオン気味の録音でレンジが広ければ(特に高音部)、これがサントリーホールだったらと少したらればがありますが、マークがフルトヴェングラーに師事していたことを思い出させてくれるのは、ロンドン響との演奏よりこちらの方が上。特に第1楽章の前のめりで進むコーダ部分と第4楽章の圧倒的な迫力(特にコーダの低弦の効いた悠然たる進行)が見事。時にティンパニの強打やトランペットとホルンの咆哮が結構きつめで粗野な部分もあるので、ちょっとイメージするスコットランドと違うかもしれません。
でも力強い響きだけで勝負なのではなく、第2、第3楽章も緩急をつけながら、翳りのある音色を都響から巧みに引き出しています。各楽器が本当によく歌い鳴りきっています。同時収録の「フィンガルの洞窟」がさらにドラマチックな名演。音質・録音含めて考えても、CDでこれ以上の演奏は聴いたことがない。フルトヴェングラーのような暗く深い響きとアッチェレランド。名曲・小品的な扱いでの演奏ではなく、交響曲と同じくらいの感銘がある。モーツアルトのプラハも佳演です。
晩年のマークはartレーベルというマイナーなレーベルから、イタリアやスペインの地方楽団とベートーヴェンの交響曲全集を含む数多くの録音をしましたが、この演奏より優れたものはありませんでした。オケが非力なのとぼやけた録音が残念です。それと比べると、都響との晩年のライブ録音は(特に1990年のベートーヴェン 第9)録音もよく演奏も素晴らしい。

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都響とのライブ盤はブルックナーを除き基本はずれがない名コンビでした。ペーター・マークを呼んでくれて、またライブ録音を残してくれてありがとう、都響。忘れ去られてほしくない名匠の一人です。

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