フランスの現代音楽の作曲家であり指揮者としても名高かったピーエール・ブーレーズ(1925-2016)。ブーレーズの名言にシェーンベルクが亡くなった時に、「シェーンベルクは死んだ」(12音技法は死んだという意味)という言葉がありますが、ブーレーズの作品・作曲思想は生き残るのでしょうか。私たちがキラキラ星の楽譜を読むのと同じ感覚でストラヴィンスキーの「春の祭典」の総譜を読むことのできたブーレーズは、作曲技法の先を見通せすぎたのではないでしょうか?彼の作品は何度か耳にしたことはありますが、残念ながら理解することは出来ず、私との親和性は今でも構築できていません。

指揮者としての面では、彼の代表作と言われるクリーヴランド管弦楽団との「春の祭典」(初演並みにセンセーショナルな登場をした旧盤)があります。その分析的な演奏に感心・敬服することはあっても感動や興奮を得ることは無く、旧盤新盤ともに棚には残っていません。晩年の演奏スタイルは、良くも悪くも若い頃の刺々しさが無くなり、常に冷静というか冷たく楽譜を読み取り音響を構築していくスタイルの演奏でした。「春の祭典」を絶賛する人はつまらなくなったといいますが、多くは深化して巨匠になったと評価され、その見通しのよい演奏は多くの人に難解な作品をシンプルに聴かせてくれるようになっていたように思います。私は後者。ただ評価の高いマーラーとかはそんなにいい演奏だとは思えず、「巨人」だけ聴いてあとはパスしました。
ブーレーズはオペラでも活躍しており、演出家パトリス・シェローと組んだバイロイトでの指環も有名。但し演出の方が。ただそんなブーレーズの特徴が生きた、同じコンビでの隠れ名盤ヤナーチェクの最後のオペラ「死者の家から」は今でも何度も視聴します。

ヤナーチェク:
歌劇《死者の家から》
オラフ・ベーア(バリトン:アレクサンドル・ペトロヴィチ・ゴリャンチコフ)
リック・シュトクローサ(テノール:アリイエイヤ)
シュテファン・マルギータ(テノール:フィルカ・モロゾフ)、他
アルノルト・シェーンベルク合唱団
マーラー・チェンバー・オーケストラ
指揮:ピエール・ブーレーズ
舞台監督(演出):パトリス・シェロー
2007年7月20日 エクサン=プロヴァンスでのライブ
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20世紀オペラ演奏史において特別な位置を占める作品ヤナーチェク「死者の家から」。ドストエフスキーの「死の家の記録」をヤナーチェクが脚色したリブレットに基づく彼の最後のオペラ。ドストエフスキーが実際に目撃したシベリア監獄の実態を、暗く閉塞感を漂わせる独特な音楽語法で聴衆に強烈に訴えかける。ブーレーズの透徹した音楽作りと、シェローの人間存在を深く抉る演出が結びつき、ヤナーチェク最晩年の傑作がこれ以上ないほどの明晰さと強度で立ち上がっています。冷徹な音作りが鋭利な音楽をさらに切先鋭くするという方向性が合致した好例。
ヤナーチェク特有の断片的・モザイク的な書法を、ブーレーズは驚くほど明晰に整理し、細部の動機やリズムの脈動を一点の曇りもなく浮かび上がらせる。マーラー・チェンバー・オーケストラの精緻なアンサンブルと相まって、ヤナーチェクの荒涼の美が極限まで研ぎ澄まされている。演出は囚人たちの孤独と希望の断片を象徴するかのような巨大なコンクリート壁に囲まれた閉塞空間。人物の動きは細部まで心理的に練り上げられ、群衆の中の個が鮮烈に浮かび上がります。ブーレーズ=シェローの再会(「リング」「ルル」以来)は、20世紀の活況を呈したオペラ時代の歴史的邂逅でもあります
このオペラはアリアで魅せるタイプのオペラではなく、囚人たちの群像劇。またチェコ語での歌唱にもなるため、高名な歌手の饗宴とならない。キャスト全員のまとまった演技力・発声・存在感が演奏の質を左右する。このDVDの歌手陣は、まさに全員が主役と言えるレベルで揃っています。
2007年エクサン=プロヴァンスでの収録。映像監督ステファーヌ・メッジのカメラは舞台の緊張感を損なわずに捉えています。明るい気持ちになる映像作品ではないですが、しっかりオペラを堪能したという満足感が得られる稀有なDVDです。私はクライバーの新旧「ばらの騎士」と同じくらいに評価しています。
この曲を知ったきっかけ。懐かしいアバドのウィーン時代の映像。
CDによる名演では、チャールズ・マッケラスとウィーンpoのものがあります。マッケラスの方がテンポは柔軟で、語りの抑揚が大きい。テンポは柔軟で、語りの抑揚が大きい。オケがウイーンpoなので音に厚みがあり、土臭い香りがあり時に金管の咆哮がドラマを押し上げる。
弦のうねりは民族音楽の熱を帯びる様など。当時のDECCAが近接マイクでリアルな音像をとらえている。聴き比べるとより相互の演奏の良さがわかります。

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没後すっかり忘れ去られてしまった感のあるブーレーズ録音。カール・ベームにも似た現象。晩年のバルトーク録音とともに、彼の指揮者としての再評価がされてほしいものです。
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