クラシック音楽レビュー

アンセルメの陶酔 ラヴェル「ラ・ヴァルス」 パリ音楽院管弦楽団との録音

スイス・ロマンド管弦楽団との録音で名を残すエルネスト・アンセルメ。シャルル・デュトワが同じDECCAでその上書をしてしまったため、現在では一時ほどの評価が与えられていないと思われます。そもそもDECCA録音の魔術により実力以上の評価がされているというのが、現在の評価の主流なのかもしれません。

アンセルメはステレオ初期の録音が有名な一方、モノラル時代の録音はさらに一層知られていません。後年の演奏と違いかなり表現主義的な演奏をしていてとても興味深い。それに加えスイス・ロマンド管弦楽団の技術もまだ未熟で、アンサンブルも崩壊しるものも多い。ストラヴィンスキー録音などはよくこれで発売したな・・・と思うほど。アンセルメの指揮も後年とは別の指揮者のように激しい。

その時期の録音の1枚に、パリ音楽院管弦楽団とのフランス音楽集があります。1953年の録音でモノラル最終期、しかしパリ音楽院管弦楽団なので当時のスイス・ロマンドよりは技術が確かで「フランスのオーケストラよりもフランス的」なオーケストラよりも本場のパリの香り。LPでの収録曲はラヴェル:ボレロ,ラ・ヴァルス,デュカス:魔法使いの弟子,オネゲル:パシフィック231。どれも良くも悪くもダルでありながら香りを蓄えた魅惑的な演奏。その中で一番凄いのがラヴェルの「ラ・ヴァルス」。

ラヴェル 「ラ・ヴァルス」
指揮:エルネスト・アンセルメ
パリ音楽院管弦楽団
1953年 スタジオ録音(モノラル)
AMAZON ⇒ アンセルメ ラヴェル

この曲ではパリ音楽院管弦楽団の音色・香りも魅力。パリ音楽院管の淡彩で軽快な響きは、ウィンナ・ワルツの崩壊を描くラヴェルの意図にぴったり。重心の低い独墺系オケでは出ない軽やかな毒気がある。しかし手堅い演奏するイメージのあるアンセルメの解釈のほうが魅力です。ワルツのリズムに大きなテンポ変化と揺らぎをつけ、強弱も明確につけながら演奏しています。冷静沈着なイメージのあるアンセルメが結構暴れています。この曲にパリ音楽院管弦楽団というパレットを使って、レコード盤にフランスの香りを充填させています。

名盤として有名なクリュイタンス盤がステレオ録音で、丸みのある音色(特にフルートとオーボエ)、フランス的柔らかさが前面に出し、妖艶で官能的、フレーズの歌いが滑らかで、ワルツの旋律線が美しく流れる。一方アンセルメは同じオーケストラでありながら、乾いた淡彩の音色(パリ音楽院管の伝統的サウンド)を強調、個々の楽器の線を立たせ輪郭を明確に、フレーズを語るように吹かせて、色彩よりも構造・リズムの刻みを優先した感じです。特にクラリネットの毒気が強く、ワルツの崩壊の兆しがより生々しい。モノラルでオンマイクのためより一層強調される。

木管の扱いはクリュイタンスは歌わせ、アンセルメ語る。金管楽器の最後の扱いはクリュイタンスは美しく崩れていくのに対し、アンセルメは鋭く壊れる。弦楽器はクリュイタンスは色彩の土台、アンセルメは構造の土台として機能させている。。

モノラルにも関わらずこの録音では、全体的にオーケストラの音色に耳が行く。「ボレロ」の方が各楽器に土臭さが目立ちます。それらを引き出しているのは間違いなくアンセルメです。「ラ・ヴァルス」は最後の盛り上がりのところでは止まってしまうのではないかと思うような大きな抑揚をつけたテンポダウンを見せます。


上記の動画 12:10~の部分。

またそこに揺れるようなクレッシェンドがかかっているので、最初聴いたときには「どうやって演奏している?」と驚きました。身体が大きく揺らされて、ふわっと浮き上がるような気持ちにさせてくれます。1960年代のアンセルメにはこのような解釈は見られません。その他の演奏でもここまでこの部分が印象に残る演奏は無い。テンポを大きく落とす演奏は見かけますが、そこに音量の変化を巧みにつけたものは無く印象は全く違う。


後年の演奏。こちらの44:50~と比べると違いが分かる。

アンセルメの全盛期は1950年中盤位までで、この指揮者も意外と燃える系の指揮者だったのではないかと思います。スイス・ロマンド管弦楽団とのCD群は、昔は名盤・名録音といわれましたが、前述のとおりデュトワとモントリオール交響楽団にその席は奪われ、今はカタログからかなり消えてしまっています。来日したときの実演が悪かったので、「録音の技術で生まれた(作られた)名演奏」と揶揄されて、あれだけ評論家も「推薦!」と言っておきながら葬られてしまった。

「ラ・ヴァルス」に限って言えば、パリ音楽院管弦楽団ならクリュイタンスとの録音、アンセルメとしてはスイス・ロマンドとのステレオ録音があるため、この録音は全くと言って知られていない。ただその両者の録音に比べても全く遜色がないどころか、今となっては聴くことのできない魅惑的な音色と表現が詰まっていて唯一無二の魅力を放っています。


このボレロもダルな感じが堪らない。

※当ページはシーサーブログ「クラシック 名曲・名盤求めて三千枚」からの引っ越しページです。徐々にこちらに軸足を変えていく予定です。
旧ページ:クラシック音楽 名曲・名盤CD求めて三千枚
CTAサンプル

これはCTAサンプルです。
内容を編集するか削除してください。