カラヤンの後を継ぎベルリン・フィルの音楽監督を務めたクラウディオ・アバド。穏当でセンスの良い演奏をするイメージの指揮者です。CDで聴く限り天才的な閃きや個性的な演奏を展開する指揮者ではなく、オーケストラとの共同作業により質の良い、80~90点を常にとってくるような印象かと思います。残念ながらベルリン・フィルでの仕事はオーケストラの質の維持には大きく貢献したものの、後世に残るような録音を残したかといえば疑問符が残ります。
任期終盤アバドは癌に侵され休養。復帰後はぐっと痩せてしまった。ただ音楽への情熱はさらに高まったようで、退任後はルツェルン音楽祭を軸にしてさらに熱のこもった演奏を繰り広げるようになりました。若き頃やベルリン時代のマーラーに比べてルツェルンでのマーラーは、アバドが集中力が高く燃えていること、また楽団のアバドへの共感・忠誠心が高いこともあって毎年名演を繰り広げていた。燃えたときのアバドは凄いのです。ただあまりそれが記録に残っていない。
ベルリンpoのヨーロッパコンサートは昔毎年NHK-BSで放送されていました。少々演奏にマンネリ化が生じてきた頃、復帰後のアバドが指揮するパレルモのコンサートが放送されました。そのメインプロで演奏されたのドヴォルザークの「新世界」。これがアバドらしからぬ壮絶な演奏でDVDで発売されないものかと思っていたら発売されたので即購入。何度観ても聴いても素晴らしい演奏です。

ドヴォルザーク 交響曲第9番ホ短調「新世界より」
指揮:クラウディオ・アバド
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
2002年 パレルモでのライブ録音
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DG盤(1997)は整然と美しいが、ここまでの切迫感はない。ザルツブルク盤(2001)は渋く引き締まっているが、パレルモほどの熱さがない。闘病後の復帰という背景がまた音楽の一音一音に生きる意志を刻んでいように感じ、痩身をよじりながら気迫を込めた指揮姿です。指揮者の精神状態・オーケストラの集中・会場の空気・映像の臨場感がすべて一点に収束した奇跡の瞬間だと思います。楽章が進むにつれて、アバドもオケも熱を帯びていくのがわかります。第4楽章は何の付け入る隙もなく最後のコーダに突入しします。壮絶に鳴りきったオーケストラの中から聴こえるトランペットの第1主題は、ドヴォルザークの阿鼻叫喚。ここまで燃えるアバドは珍しいです。ちなみにアンコールで演奏された「シチリアの晩鐘」序曲もまた凄い。
この組み合わせなので、ドヴォルザークの民族性といったものは皆無。ただ当時最高水準だったベルリンpoの管楽器群がこの曲の隠れた音を浮き彫りにし、それを支える弦楽器群のアンサンブルの精度にはそれを超えるものがあります。通常であれば「巧さ」が表に出てしらける部分出てきそうなところが、アバドの熱気に煽られ懐かしきカラヤン時代の「楽団」としての音になっているためどの部分も生きた音楽になって表出される。実際演奏中の楽員の顔は楽しそうであり、限界ギリギリまで引き出され一生懸命な姿でもある。オーケストラプレーヤーとして一番楽しい瞬間。
絶妙にテンポに揺れもあり緊張感が途切れない。アバドの若き日の勢いと鋭敏さを巨大なスケールで取り戻した名演です。テアトロ・マッシモの劇場美と天井カメラの映像も素晴らしい。ちなみに映画「ゴッド・ファーザーⅢ」の最後の場面のオペラハウスです。観ていて飽きがこないカメラワーク、劇場の趣が非常によく伝わる。
ベルリンpoとのCD録音よりも録音状態も良く、オーケストラの分離の良い響きとオールの良さも鮮明に聴きとれます。所有システムの良し悪しまで判る優秀ソフトでもあり、その臨場感の良さはライヴの熱気をそのまま閉じ込めているかのようです。
音楽監督としての最後の瞬間、闘病を乗り越えた精神、若いベルリン・フィルの気迫、そして劇場の空気と映像の力がすべて重なり、この通俗名曲が初めて聴く作品のように新鮮な輝きを放っている。それはアバドの指揮の最終到達点であり、彼の芸術の真価が最も純粋な形で刻まれた「燃えるアバド」の真骨頂を捉えた記録だと思います。
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ちなみにアバドのドヴォルザークは第8番も熱い演奏がCDとして残っています。発売当時は結構評価が高かったもののこちらもあまり今では知られていない。小澤征爾とウィーンpoのCDも同じような感じです。少なくとも今聴いても凄い!と思うのは、小澤盤よりもアバドの演奏です。
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