クラシック音楽レビュー

蜜月期のウィーンpoとプレヴィンの「カルミナ・ブラーナ」

1990年代、ウィーンpoと良好な関係を築いていたのはリッカルド・ムーティとアンドレ・プレヴィン(1929-2019)だったのは間違いないかと思います。ムーティはオーケストラをドライブし手中に治めようとしていた一方、プレヴィンは素材の良さをそのままに存分に生かし切る方向で音楽作りを行っていました。これはその前のロンドン交響楽団時代も一緒でした。

特にテラークやフィリップスに残したR・シュトラウスの交響詩録音は、今聴いても当時のウィーンpoの美質を生かした素晴らしい演奏と録音です。カラヤンのようなゴージャスさは無く、クレメンス・クラウスやピエール・モントゥーのような音楽自体に語らせる音楽作りです。最晩年にはNHK交響楽団に客演していましたが、バトンテクニックが衰えて全盛期を知るものからすると少し寂しい気持ちになったものです。

そんなプレヴィンとウィーンpoの蜜月時代の秀演オルフの「カルミナ・ブラーナ」を。プレヴィンは強烈な個性やカリスマが無かったためか日本では玄人受けは良かったものの、「ジャズ上がりの指揮者でしょ」という先入観が捨てきれない人が多く人気はいまいちだったかと。プレヴィンとしては2度目の録音(1度目はロンドン交響楽団)になり、レーベルもグラモフォンになっています。

オルフ「カルミナ・ブラーナ」
バーバラ・ボニー(ソプラノ)
フランク・ロパード(テノール)
アントニー・マイケルズ=ムーア(バリトン)
アルノルト・シェーンベルク合唱団
ウィーン少年合唱団
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:アンドレ・プレヴィン
録音:1993年10月 ウィーン(ライヴ)

AMAZON → プレヴィン オルフ「カルミナ・ブラーナ」(1993)

大学時代にFMで放送されると聞いた時は胸が躍ったものです。当時のこのコンビであれば素晴らしいものになるのは間違いなく、ヨッフムの名盤に匹敵できる演奏がようやく出るのではないかと。コンサート評もかなり良かったとレコード芸術か音楽の友か何かで読んで、早くCDにならないかとそわそわしていた大学時代を思い出します。演奏は良かったものの、FMの受信が良くなくちょっと残念に感じた記憶があります。結論としては、晩年のプレヴィンの円熟とウィーン・フィルの豪奢な響きが溶け合った、静かで深い輝きを放つ名盤です。

そしてこの録音は、プレヴィンとウィーンの蜜月が終わりへ向かう直前に残された、最後の幸福な瞬間でもあります。1970年代のプレヴィンは、ロンドン響でのシャープなリズム感と推進力が魅力でした。ここでの演奏は、テンポの揺らぎが自然で呼吸が深く、音楽の語りが増しドラマが内側から立ち上がる。過度な強調を避け、構造を丁寧に積み上げる《O Fortuna》の冒頭も、ただ爆発するのではなく重心の低い円熟した迫力がじわりと広がる。


1990年代のウィーン・フィルは、まだウィーン独特の音色文化が濃厚に残っていた時代。絹のような弦、丸みのあるホルン、木管の陰影、、金管の柔らかい輝き。これらがオルフの原始的なリズムに官能的な色彩を与える。少々R・シュトラウス的でもある。特に「春の踊り」や「愛の宮殿」の場面での弦のレガートは、他のどの録音にもない美しさだと思います。ウィーン・フィルがこの曲を録音すること自体が稀で、その希少性もこの盤の価値を高めています。(そもそも1950年以降ではムーティとプレヴィンとしか演奏記録が無い)



1990年代の録音は、デジタル録音の透明度が向上した時期。グラモフォンの当時力を入れていた4D録音による録音で、少しマルチ・マイク的でデジタル臭い。ただその恩恵で、合唱の発音が明晰、ソリストの声が自然にオーケストラに溶ける、打楽器のアタックが過度に硬くならないという絶妙なバランスが実現している。特にバリトン ムーアの存在感は圧倒的で、作品の語り手としての役割を見事に果たしている。

1980年代、プレヴィンはウィーン・フィルから伝統を理解し、尊重する指揮者として深く信頼されていました。リハーサルでの柔らかいコミュニケーション、オペラへの造詣(作曲家でもあります)、ウィーンの音色文化への敬意。これらが団員に愛され、録音も演奏会も順調に進んでいました。しかし1990年代に入ると、ウィーン・フィルの内部文化が変化し始めます。
・団員の世代交代(コンサートマスター ヘッツェルの急逝は大きな痛手!)
・マネジメントの方針転換
・プログラム選択の意見の相違
・リハーサル時間の使い方への不満
こうした小さなズレが積み重なり、プレヴィンとの距離が徐々に広がっていきました。この「カルミナ・ブラーナ」は、その距離が開く直前に録音されたものになります。1996年ごろまでは頻繁に指揮、その後は2000年代前半まで空き2003年9月に指揮したのが最後となるようです。


このCDが出ても残念ながら私にはやはりヨッフム盤が上かなというのが最終結論。綺麗すぎるのです。やはり曲にはバーバーリズム的な要素が強いので、根源的な迫力とアンサンブルが乱れようとも少し荒々しさがある方が魅力的。ディースカウの歌唱も忘れられません。作曲家のオルフ監修の録音でもあり合唱もまとめるのが巧かったヨッフムの方が一枚上手だったかなと思います。話題になった小澤/BPO盤もありましたが今はどうなのでしょうか?映像で見たときはおぉ凄いと思ったものの、何かが違う。
AMAZON → ヨッフム オルフ「カルミナ・ブラーナ」

迫力満点のカルミナ・ブラーナを、いつもと違った角度でよりカラフルで精細に、オーディオ的にオーケストラの音色を堪能したい場合に相応しい秀演です。この時期はまだレコード会社にもクラシック音楽業界にもまだ最後の灯があったなぁと感慨深さも湧いてくる不思議なCDでもあります。

※当ページはシーサーブログ「クラシック 名曲・名盤求めて三千枚」からの引っ越しページです。徐々にこちらに軸足を変えていく予定です。
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