クラシック音楽レビュー

父クライバーによるウィンナワルツ録音 1929-1934年

カルロス・クライバーの父親としての方が有名になってしまった感のあるエーリッヒ・クライバー(1890-1956)。戦前戦後はベルリン・ウィーンで活躍、ただナチスを嫌いカルロスを連れて即南米に亡命。北米で無いところが味噌で、戦争前夜ということもあり一切政治に関与したくない、それ位ならば音楽後進国でもいいので音楽に専念したいという漢気でしょうか。厳しいリハーサルでも有名で、ベルク「ヴォツェック」初演の際には100回を超えるリハーサルを行ったと言われてます。当時の南米のオペラハウス、オーケストラで彼は満足した音楽でできたのかは不明。

戦後はヨーロッパに戻り、再びベルリン国立歌劇場、ウィーンで活躍。DECCAに遺した「フィガロの結婚」「薔薇の騎士」は、録音・キャストともに当時の最高の布陣で臨んだもので未だに名盤の誉れが高い。息子のカルロス同様くっきりとした輪郭で颯爽とした響きが特徴で、しなるようなリズム感も持ち合わせたもの。フルトヴェングラーやトスカニーニ、ワルターが活躍していた時代としてはモダンな解釈をしていたと思われます。ただ写真を見てわかるようにカルロスのような現場でのノリや閃きが無いそうで、ライブでもリハーサル通りきっちりだったそうです。

そんな父クライバーの戦前の録音。CD蒐集初期に手に入れたもので、不思議と手を離れないヨハン・シュトラウスのワルツを含んだ一枚。ほぼ1世紀前のSP録音復刻ながら録音もそこまで悪くない。当時の名評論家あらえびすからもクレメンス・クラウスよりもいいと言われていた録音。

エーリッヒ・クライバー 戦前のワルツなど録音集
01 舞踏への勧誘 (ウェーバー)
02 オーストリアの村つばめ (ヨゼフ・シュトラウス)
03「ジプシー男爵」序曲 (J.シュトラウス2世)
04 芸術家の生涯 (J.シュトラウス2世)
05 「こうもり」序曲 (J.シュトラウス2世)
06 お前同志 (J.シュトラウス2世)
07 皇帝円舞曲 (J.シュトラウス2世)
08「オペラ舞踏会」序曲 (ホイベルガー)
09「ばらの騎士」のワルツ (R.シュトラウス)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 ※4,6のみ
録音 1929-1934年

AMAZON → E・クライバー ワルツなど録音集

どの曲もかっちりした演奏でウィーン的な要素よりもドイツ風の重厚さが漂っています。それぞれ1つの管弦楽曲作品として交響曲並みの生真面目さで演奏してます。カラヤンもそうでしたね。ただ当時のウィーン、ベルリンのオーケストラにはまだ軽くポルタメントをかける癖があったため、ところどころで音が甘くなりワルツ的風情も感じさせてくれます。古いモノラル録音であることも加え、ノスタルジックこの上ない。


ウィーンと録音したものが1929年録音で音も少し劣る。しかし二拍目が若干早いウィーン三拍子の傾向がある。その他は厳格で1・2・3とリズムが厳格に刻まれるし、定番の間も取らない。「こうもり」序曲の第1ワルツ手前の間も一切取らず前に進むし、通常ルバートする音も一切引っ張らない。逆にリズムは明晰で良く弾み前進性がある。エーリッヒの書き込み楽譜はカルロスが後生大事にしていたようですが、この「こうもり」序曲を聴くとやはり共通点が多い。

「ジプシー男爵」序曲もカルロスが1992年のニューイヤーで取り上げていました。やはり同傾向の演奏で鞭がしなるようなフレージング。エーリッヒの指揮姿はカルロスのそれとは違って踊るようなスタイルではなく、昔気質できっちり表紙を刻むタイプだったので、どのようにして同じような傾向の響き・リズムが生まれてくるのかわかりません。


特徴的なのが「オーストリアの村つばめ」。第4ワルツの繰り返しの際、裏の弦のピチカートによる三拍子を強く弾けるように目立たせる。古い録音にもかかわらず異様なほど明確に聴こえます。これは非常に効果的。「皇帝円舞曲」も背筋がピンと伸びる。チェロの独奏の部分を弦合奏に変更しています。哀愁感は薄れるものの、管弦楽曲としては引き締まって全体の統一感は増す。この変更はワルターも行っていました。マイクで捉えづらくなるからかもしれません。



このCDからは当時の演奏流儀が垣間見える。それが厳しすぎるエーリッヒの表現を緩和させ、ワルツに丁度いい塩梅に甘さを加えてくれる。クレメンス・クラウスのワルツもいいですが、あちらは細部にこだわらずウィーンの流儀を最大限に生かす音楽作りで、今聴くと詰めが甘いとも感じる。ちなみにあらえびすはクラウスの演奏を当時でもそのようにバッサリ斬っていました。

全体的な特徴としては
1. テンポの揺れを極限まで抑える美学
ウィーンの揺れをほぼ使わず、自然な流れと構造の明晰さを優先しているので、ワルツが純粋な管弦楽作品として響く。
2. 細部のアーティキュレーションが明晰
弦の刻み、木管の装飾、金管。どれも響きが広がらず線として立ち上がる。1930年代録音とは思えないほどのアンサンブルの精度。
3. 甘さを排した構造のワルツ
透明な構造、精密なリズム、引き締まった響きによって、作品の内側に潜む知的な美しさを浮かび上がらせる。
当時としてはかなり異質な演奏ではなかったのかと推測します。

エーリッヒ・クライバーの1930年代シュトラウス録音は、ウィーンの伝統とは異なる角度からワルツの本質を照らす、知的で透明な名演です。ワルツが軽やかな踊りを超えて、純粋な管弦楽芸術として立ち上がる瞬間がここにあります。カルロスの演奏の本流であり、父親の演奏を聴いた観客がいると思うと指揮ができないとカルロスがいうのも何となくわかる1枚です。

※当ページはシーサーブログ「クラシック 名曲・名盤求めて三千枚」からの引っ越しページです。徐々にこちらに軸足を変えていく予定です。
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