クラシック音楽レビュー

若きムターとカラヤンによるブラームス ヴァイオリン協奏曲

若き頃を知っている方は、すでにアンネ=ゾフィー・ムターが還暦を超えていることに驚きを禁じ得ないことでしょう。1970年代10代の頃にカラヤンに見いだされたドイツの女流ヴァイオリニスト。デビュー当初から技巧もさることながら音量の大きさ、少々音が汚くなっても音楽表現を優先させるなど、巨匠指揮者との共演でも全く怯まない肝の据わりがありました。

1976年、スイスの音楽祭。13歳のアンネ=ゾフィー・ムターがステージに立ち、バッハを弾いたその瞬間、カラヤンは固まったと言われています。「この子は天才だ。私が責任を持つ」。カラヤンも大事に育てるためエージェントに、若いうちは安易にレパートリーを増やすな、世界中にツアーを回らすななど注意を促していたそうです。レコーディングも慎重に選定し、若いムターに負担がかからないよう、曲目・スケジュールを細かく調整する。母親とも連絡を取り合い、精神面のケアまで気を配った。そのおかげか変に神童扱いも無く、ゆっくり成熟して今でも活躍を続けています。そんな若きムターのCDの中で今でも愛聴する一枚がブラームスです。

ブラームス
ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品77
ヴァイオリン:アンネ=ゾフィー・ムター
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1981年9月 ベルリン

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録音時ムター18歳。すでにカラヤンとの録音は数回行ってましたが、それまではまだ巨匠の手の中で伸びやかに音楽をする印象でした。この録音ではぐっと進歩が見え、分厚いカラヤン、ベルリンPOに負けない音量と構成力で聴かせます。基本はカラヤンの手の中にいながら、自分の音楽をその中にすっと忍び込ませる度胸がついたことがわかります。カラヤン晩年に共演したキーシンもそのような感じでした。

この録音でもムターのヴァイオリンは、特段際立った解釈をしているわけはありません。ただ18歳とは思えない深いレガートと落ち着いた音色。ブラームス特有の内声の温かさを丁寧に歌わせ、技術の冴えよりも 音楽の必然性を優先する姿勢がこの録音時点ですでに確立されています。何もしていないけど、ブラームスの音楽を担当させてくれる。軽くもなく重苦しくもしかめっ面しくもない。若いのにすごいとかもなく、ただ純粋にブラームスの音楽を理解しているという驚きがある。簡単そうでこれは非常に難しい。



カラヤンの伴奏はテンポが遅く重厚で、フォルティッシモが少々人工的な嫌いはあるがブラームス的な音の構築。ベルリン・フィルの弦は厚みがありながら、ムターの音を包み込むよう。今のソリストの音をマスクしてしまうようなところが無い。しっかりとカラヤンにバランスを調整されている。管楽器もバランスが絶妙で、交響曲的構造が自然に立ち上がる。

第2楽章の美しいオーボエの旋律も素晴らしい。この戦慄をそのままヴァイオリンが奏でることはない。サラサーテが「その旋律をヴァイオリンを持って眺めて聴いているのに我慢がならない」といった気持ちがよくわかる演奏です。全体的にカラヤン特有の流れるようなフレージングが、ゆっくり目のテンポを採用することで協奏曲を 「交響曲+ヴァイオリン」 という大きな構造物に仕上げてます。


ムターの足を引っ張っているとも揶揄されることの多い晩年の共演録音。それは、ムターが好き勝手弾かないように、強固なフレームで囲って彼女の音楽をやらせていたのではないかと思います。第3楽章も双方譲らず、聴こえない音符は無いのではないかと思うほどしっかり弾ききっている。これだけバックが壮大に鳴らしているのも関わらず、ムターの音がしっかりと聴こえる。録音の妙もあるとはいえ、凄いものです。

1980年中盤からカラヤンから徐々に自立していったムターは、その表現意欲が解放されたかのようにテンポを揺らし、強弱も大きくとった音楽をし始めます。残念ながらその頃には指揮者側が彼女の音楽を支えきれない、コントロールができないことが増え感銘を受けるCDは減ってしまった。ブラームスもマズアと組んだ再録音があります。悪く言えばムターが好き勝手やりすぎ、ブラームス感が感じられない。オーケストラは冷ややか軽薄ですぐに手放しました。


そう考えるとまだまだ元気だったカラヤン、ベルリン・フィルとも関係が完全に冷え切る前であり、ムターも技術万全で自分の表現意欲を上手くコントロールできる指揮者の元で録音した三者にとっていい時期での録音だったのかもしれません。デジタル録音初期のためやや奥行き不足でマルチマイク的な音で、カラヤンの音がより人工的・圧力的に聴こえてしまう部分があるのが残念。LPでだと少しその傾向は和らぎ、ヴァイオリンも伸びやかに聴こえるので時間に余裕があるときはLPを手に取ることが多い盤でもあります。

この名盤を聴くと、ムターもなんだか晩年のイダ・ヘンデルっぽくなっているなぁと少々残念に感じてしまうのです。同時期のグラズノフも未だにムターとyoutubeに上がっているヒラリー・ハーンのものが最高だと思ってます。すぐに廃盤になってしまうのが残念。
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※当ページはシーサーブログ「クラシック 名曲・名盤求めて三千枚」からの引っ越しページです。徐々にこちらに軸足を変えていく予定です。
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