クラシック音楽レビュー

若きグールドによる快演 ベートーヴェン ピアノ協奏曲1番

ベートーヴェンのピアノ協奏曲は5曲残されており、第5番「皇帝」が有名ですが、モーツァルトの影響が残る第1番もチャーミングな佳曲です。第3楽章は特に調子よい旋律とテンポで聴後に清々しさが残ります。この曲をバッハ弾きとして有名なグレン・グールドが料理するとどのような演奏になるか想像できますか?

グールドといえばバッハ、それもゴールドベルク変奏曲が有名です。その独特な表現能力はモーツァルト、ベートーヴェンでも健在で優れた演奏を残しています。ただ曲との相性にかなり左右される。はずれとなることも多い一方、めっぽう面白くツボに入るものも多い。このベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番はバッハ的な要素を自由に取り入れつつ、小気味良いテンポも印象的な当たりの演奏です。はずれは第5番「皇帝」で超スローテンポの迷盤として有名。

ベートーヴェン ピアノ協奏曲第1番ハ長調
ピアノ:グレン・グールド
指揮:ウラディーミル・ゴルシュマン
コロンビア交響楽団
1958年 スタジオ録音
AMAZON → グールド ベートーヴェンP協奏曲1番

独創的かつ闊達な演奏。この曲の良さを見事に炙り出しています。グールドのピアノは、ノンレガート気味のコロコロと転がるような音色とテンポで見事。若きグールドの純度の高い個性とゴルシュマンの古典派的端正さが奇跡的に噛み合った録音です。グールドの協奏曲録音の中でも、もっとも自然体で、もっとも自由で、もっとも楽しそうな一枚。無名な指揮者ゴルシュマンの伴奏もグールドに負けず素晴らしい。立体的にしっかりと鳴らしながらも、グールドのピアノにぴったり合わせています。録音も1958年というステレオ初期でも年代を感じさせない優秀さ。


この録音は、後年のバーンスタインとの緊張感ある協奏曲録音とはまったく異なり、グールドの個性がのびのびと呼吸しているのが最大の魅力です。第1楽章冒頭からペダルをほとんど使わないことで構造が透けて見え、旋律よりも音の並び方が明晰に聴こえてくる。グールドの対位法的耳が発揮されている。



第2楽章は遅いテンポでも音を短く切っているため粘り過ぎにならず、グールドの健全な指回しで切々と歌っています。ゴルシュマンの伴奏も無味乾燥なところが一瞬もない。まるでモーツァルトの協奏曲を聴いているような気持ちになります。両者ともに特に優れているのは第3楽章。グールドの早いテンポの第1主題から始まりますが、コーダまでその勢いそのまま。ゴルシュマンの伴奏も抉るような低弦から管楽器まで配慮の行き届いています。スカルラッティのような軽妙さで流れるようなパッセージを早いテンポで処理している。1音1音がくっきり生き生きとして耳に飛び込んできます。ピアノと戯れているグールドの姿が目に浮かびます。

この演奏・CDをさらに素晴らしく唯一無二の存在にしているのは、第1楽章と第3楽章のグールド自身で作曲したカデンツァ。バッハ的対位法、シェーンベルク的分解、そして最終的にはベートーヴェン素材の再構成に帰依する。先の映像でも使用されていますが、急にバッハの音楽のような対位法的なピアノのカデンツァが鳴り驚きます。即興的で最初はちょっと違和感を感じますが、最終的には魅了され納得させられてしまいます。天才の為せる技です。


主題断片をフーガ的に処理、声部の独立性を極端に強調し和声よりも線の動きを目立たせる。主題のリズムだけを抽出し2〜3音の細片に切断したうえで体位法的に積層、そうなると原曲の調性感を一時的に曖昧になります。そこから構造の再構築を行い、ベートーヴェンの音楽に戻っていく。ただ慣例的なトリルでの締めではなく、オーケストラの開始とともにドン!と終わらせ緩みなく元に戻る間合いの良さ。

すぐにグールド=バッハ、ゴールドベルク変奏曲となりますが、このベートーヴェンの演奏も語り継がれるべきグールドの代表的な名演奏だと思います。彼のベートーヴェン演奏は個性が強過ぎて評判が良くなく、その陰に隠れがちなのが残念な演奏です。メーカーはゴールドベルクばかりに頼り過ぎ。

※当ページはシーサーブログ「クラシック 名曲・名盤求めて三千枚」からの引っ越しページです。徐々にこちらに軸足を変えていく予定です。
旧ページ:クラシック音楽 名曲・名盤CD求めて三千枚



CTAサンプル

これはCTAサンプルです。
内容を編集するか削除してください。