オーディオのあれこれ

デッカ(Decca)初期盤レコードの刻印とエンジニアコードの読み方

UKデッカ(Decca)のオリジナル盤レコードの溝(デッドワックス)やレーベル周辺に打刻された文字や数字は、そのレコードが「いつ・誰によって・どの金型で作られたのか」を示す大切な履歴書です。

今回は、デッカの初期盤の「3時方向のコード」と「6時方向のエンジニアコード」についてです。基本知識としてレコードが製作される際には
マスターテープ → ラッカー盤(正) → メタル・マスター(金属原盤)(逆) → マザー(正) → スタンパー(逆) → 市販レコード(正) という流れで制作されます。正・逆というのはハンコのようにプレスして音溝を転写していきます。逆は逆相となり針でかけても駄目ということになります。


1. 3時方向のコード:「BUCKINGHAM」暗号(スタンパー番号)

レーベルの3時方向(右側)に刻印されている「B」「A」「G」などのアルファベットは、レコードをプレスする金型(スタンパー)の番号を示しています。

デッカでは、1から10までの数字を「B-U-C-K-I-N-G-H-A-M」という10文字の英単語に置き換える独自の暗号コードを採用していました。

【BUCKINGHAMコード対応表】

  • B = 1番目のスタンパー
  • U = 2番目のスタンパー
  • C = 3番目のスタンパー
  • K = 4番目のスタンパー
  • I = 5番目のスタンパー
  • N = 6番目のスタンパー
  • G = 7番目のスタンパー
  • H = 8番目のスタンパー
  • A = 9番目のスタンパー
  • M = 10(0)番目のスタンパー

※数字が増えると「BM(10番目)」などの2文字で表記されることもあります。
プレス数が若い(「B」や「U」などアルファベットが若い)ものほど、金型の摩耗が少なく鮮度の高い音を楽しめます。


2. 6時方向のコード:カッティング(マスタリング)・エンジニア

レーベルの6時方向(下部)に刻まれたマトリクス番号の末尾(例:XZAL-8284-1L の「L」部分)は、ラッカー盤に溝を刻んだカッティング・エンジニアのイニシャルです。その前の「-1」はマスター・ラッカー(lacquer cut)のカット番号になります。当然数字が小さいほうが初回に近いということになります。ラッカーからマザーが作成されます。ラッカーがボロボロになり使い物にならなくなると新規にラッカーが作成される。

ちなみに9時方向にはマザー番号が1、2と刻印があります。1つのラッカー盤から複数のマザーが、そのマザーから複数のスタンパーが製作されるわけです。難しい問題は、例えば-1のラッカーでマザー1 スタンパー BU(12回目のスタンパー)と-1のマザー2 スタンパー B(1回目)とどちらが優れた音質かというのは全部集めて聴いてみないとわかりません。ラッカーが変わるというのはまるっきり音が変わる可能性があるというのはわかるかと思います。

【デッカの主なカッティング・エンジニア】

  • L = George Bettyes(ジョージ・ベティース)
    ★クラシック蒐集家が最も注目する名工。SXLシリーズ等の黄金期ステレオ初期盤で絶大な人気を誇り、歪みが少なくレンジの広い美音を刻みます。
  • G = Ted Burkett(テッド・バーケット)
    ベティースと並ぶトップエンジニア。力強い低域とメリハリのある高域表現に定評があり、大編成の管弦楽やオペラ盤などで高評価を得ています。
  • E = Stan Goodall(スタン・グドール)
    主にモノラル期(LXTシリーズ)や初期ステレオ作品で活躍。
  • W = Harry Fisher(ハリー・フィッシャー)
    長年デッカのマスタリング部門を支えたベテラン技師。
  • A = Guy Fletcher(ガイ・フレッチャー)
    ローリング・ストーンズの初期モノラル盤などを多く手掛けたことでも有名です。

3. レコードの音を支えた伝説の録音(バランス)エンジニア

デッカでは「カッティング技師」と「録音現場の技師」が完全分業制になっていました。デッドワックスには刻印されませんが、レコードジャケット等で確認できる伝説の録音エンジニアもご紹介します。

  • Kenneth Wilkinson(ケネス・ウィルキンソン / 通称Wilkie)
    「レコード史上最も再現性に優れた録音エンジニア」と称される巨匠。立体的な音響空間を生み出す「デッカ・ツリー(Decca Tree)」マイク設営技術を駆使し、彼が手掛けた盤は今なおオーディオファイルから高値で取引されています。
  • Gordon Parry(ゴードン・パリー)
    ショルティ指揮によるクラシック録音史の金字塔『ニーベルングの指環』全曲録音などを手掛けた重鎮。

デッカ初期盤の最高の組み合わせ

クラシックのデッカ盤を収集する際、以下の要素が揃った盤は「最高のDECCA録音芸術」を体験できる究極の1枚と言えます。

  1. 録音エンジニア: Kenneth Wilkinson(ケネス・ウィルキンソン)
  2. カッティング: George Bettyes(L)または Ted Burkett(G)
  3. マトリクス&スタンパー: -1L / -1G かつスタンパーが B(1番)などの若い番号

お持ちのデッカ盤のデッドワックスをルーペで覗き込んで、当時の職人たちの仕事に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

※当ページはシーサーブログ「クラシック 名曲・名盤求めて三千枚」からの引っ越しページです。徐々にこちらに軸足を変えていく予定です。 旧ページ:クラシック音楽 名曲・名盤CD求めて三千枚

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