クラシック音楽レビュー

バーンスタインの佳曲「プレリュード、フーガとリフス」 M=T・トーマスで

あまり知られていない名曲、ただただ聴いていて楽しくなる曲です。吹奏楽をやられている方なら知っているのかもしれません。指揮者 レナード・バーンスタインは作曲家としても有名で「ウェスト・サイド・ストーリー」が代表作。それ以外は今はなかなか演奏されることがありません。「キャンディード」序曲は吹奏楽で良く演奏される曲ですが、この「プレリュード、フーガとリフス」はマイナーです。

「プレリュード、フーガとリフス」は、ジャズテイストが強い曲です。ベニー・グッドマンとバーンスタインが演奏したCDも残っているように、スイング・ジャズの影響が強いというかそのものかもしれません。この曲を私が知ったのはラトル/ベルリンpoがヴァルトビューネ演奏会で演奏している映像を見てからで、すぐにCDを探して出会ったのがこのM=T・トーマスのCD。

バーンスタイン 「プレリュード、フーガとリフス」
指揮:マイケル・ティルソン・トーマス
ニューワールド交響楽団

1997年録音
AMAZON → MTT New World JAZZ
※「ラプソディ・イン・ブルー (1922年オリジナル版)」、バレエ音楽「世界の創造」 (ミヨー)、エボニー・コンチェルト (ストラヴィンスキー)、ラグタイム (ヒンデミット)などクラシックとジャズの融合の歴史をテーマとした良い企画盤です。

この作品には、バーンスタインが生涯愛した二つの世界「クラシック音楽」と「ジャズ」が見事なまでに融合されています。わずか10分ほどの作品でありながら、そのエネルギーと創意は《ウエスト・サイド物語》にも通じる輝きを放っています。この作品は1949年、アメリカを代表するビッグバンド・リーダーであったウディ・ハーマンのために作曲されました。当時ハーマンは、クラシックの作曲家たちにジャズ作品を委嘱する意欲的なプロジェクトを進めており、その中にはストラヴィンスキーの《エボニー協奏曲》も含まれていました。バーンスタインはその流れの中で本作を書き上げています。

しかし完成時にはハーマン楽団が事実上活動停止状態となり、作品は演奏される機会を失いました。その後1955年、バーンスタイン自身が司会を務めたテレビ番組「The World of Jazz」でようやく初演されることになります。作品のタイトルそのものが、バーンスタインの狙いを雄弁に物語っており、「プレリュード(前奏曲)」と「フーガ」はバッハ以来の伝統的なクラシック音楽の形式です。一方、「リフ」はジャズで用いられる短い反復フレーズを意味します。つまり、
・プレリュード=クラシック
・フーガ=クラシック
・リフ=ジャズ
という構図になっています。

第1部「プレリュード」は金管楽器群によって快活にスタート。鋭いアクセントとシンコペーションに満ちた音楽は明らかにジャズの語法ですが、その構築は驚くほど緻密です。即興的に聞こえる音楽が、実は周到な設計のもとで組み立てられているところにバーンスタインの非凡さがあります。続く第2部「フーガ」ではサクソフォン群が主役となります。

本来フーガとはバロック時代の厳格な対位法による形式。しかしバーンスタインはそれをサックスだけで展開します。バッハの世界とスウィング・ジャズの世界が一体化する瞬間です。そして第3部「リフ」。ここでクラリネット独奏が登場し、ビッグバンド全体を巻き込みながら音楽は一気に加速します。音楽が熱するにつれドラムを中心にリズムは躍動し、ブラスは咆哮し、クラリネットは眩いばかりの名人芸を披露します。クラシックの作曲技法によって構築された音楽が、ジャズ特有の熱気とスリルを伴って爆発します。


このCDに含まれている曲を聴いてみるとよくわかる通り、《プレリュード、フーガとリフス》は特別で、ジャズを単なる「異国趣味」や「色彩効果」として扱っていないことです。バーンスタイン自身はジャズを深く理解し、心から愛していました。そのためこの作品では、クラシックがジャズを借用するのではなく、両者が完全に対等な立場で共存しています。このガーシュウィンが苦労していた点を、圧倒的にジャズに寄せつつクラシック音楽の範疇に収めている。

お薦めは録音も含めマイケル・ティルソン・トーマス指揮とワールド交響楽団による録音。この演奏の素晴らしさは、単に上手いというだけではありません。現代音楽とジャズにも精通するMTTならではで、リズムの切れ味が抜群です。若い奏者が揃ったワールド響もノリがいい。バーンスタイン作品に不可欠な「スウィング感」が誇張なく自然に表現されており、クラシック奏者が無理にジャズを演じている印象がまったくありません。



さらにテンポ設定が絶妙です。速い箇所では驚くほどシャープでありながら、音楽が決してせかされていない。各パートの細かな対位法が明瞭に聞こえ、バーンスタインの精巧な書法が鮮明に浮かび上がります。特に「フーガ」の部分は圧巻です。多くの演奏ではジャズ的な勢いに重点が置かれますが、ティルソン・トーマスは対位法的な構造を見事に表現しており、バッハ的な知性とジャズの躍動を同時に成立させています。そして終曲「リフ」では、ワールド交響楽団の若々しいエネルギーが爆発します。クラリネット独奏の華麗なヴィルトゥオジティ、鋭く決まるブラス、躍動するリズム・セクション。そのすべてが高い次元で統一されており何回聴いても興奮します。


この曲の特徴であるヨーロッパの伝統から受け継いだ高度な作曲技法と、アメリカの街角から生まれたジャズの生命力。その魅力を現代のリスナーに最も鮮烈に伝えてくれる演奏の一つが、マイケル・ティルソン・トーマスとワールド交響楽団による録音です。この作品を初めて聴く人にも、すでに愛聴している人にも、ぜひ一度耳を傾けていただきたい。そこにはクラシックとジャズの垣根を軽々と飛び越える、バーンスタインの天才的な音楽世界が広がっています。

※当ページはシーサーブログ「クラシック 名曲・名盤求めて三千枚」からの引っ越しページです。徐々にこちらに軸足を変えていく予定です。
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