1970年代の来日でカラヤンを凌ぐほどの熱狂を起こしたカール・ベーム(1894-1981)とウィーン・フィルの来日公演。DGで録音もされていますし、NHKの映像でも残っています。往年の名手がまだ多く残っていたウィーンpoの音色も魅力ですし、ベームも好調、観客の固唾を飲んで聴いている雰囲気などが伝わってきます。

しかしベームの全盛期は1950年代~60年代で、どこまでも歌劇場とライブで活きる指揮者でした。1970年代のスタジオ録音が有名で録音も優れているものの、全盛期の燃え結晶化された音とは違います。当時は一般的にカラヤンはテンポが速い、ベームは遅いといった認識でしたが、燃え盛った時のベームはカラヤンよりもテンポを上げますし、音自体も凝縮されたものです。1960年代のバイロイトライブ、ベルリン・ドイツ・オペラと日本に来日した際の録音を聴くとそれがよくわかります。なので、根強く残っている1970年代のベームの印象は間違っていると言わざるを得ません。
1970年代にはライブでもテンポが遅くなり、音の凝縮度も薄まり、何より昔ほど燃えなくなってしまいました。年齢を考えれば仕方のないことです。ただごく稀に昔の熱気を帯びた演奏を繰り広げることもあったようです。特に昔馴染みのオーケストラと組んだ時が多いような感じがします。その代表格がこのシュターツカペレ・ドレスデンとのシューベルトです。ベームお得意曲で何度も録音しています、ステレオ初期のベルリンpoとの演奏も調和と内なる熱のこもった素晴らしい演奏です。この晩年のベームは多少荒々しさを前面に打ち出し、古色蒼然としたドレスデンのオーケストラの響きを突き破ってトランペットが飛び出すなどライブ感と即興性に溢れた忘れられない演奏です。
シューベルト 交響曲第8番「未完成」
交響曲9番ハ長調「グレート」
指揮:カール・ベーム
シュターツカペレ・ドレスデン
1789年 ドレスデンでのライブ録音
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DGからもグレイトだけがまず発売されていました。その後放送用録音と思しきテープから、Profilから未完成も含めてリリース。こちらの方が音も良い。
シュターツカペレ・ドレスデンは、ベルリンやウィーンと違い、
・弦の柔らかいアタック
・木管の古典的で陰影ある音色
・金管の控えめで気品ある響き
が特徴。ベームの造形美とこの音色は相性がよく、シューベルトの長大なフレーズが自然に呼吸するように流れるのが、このライヴの最大の魅力です。
「未完成」ベーム晩年の特徴であるテンポの揺れを抑えた静かな語りが際立ちます。ドレスデンの弦は暗めの色調で、内声の動きが驚くほど明瞭に聴こえます。ウィーン・フィルとの1977年ライヴ(ホーエンエムス)よりも、より深く、より内省的です。第2楽章は、クラリネットとオーボエの対話が、歌うというより語るニュアンスで展開。ベームのレガートの美学が、ドレスデンの古典的木管で理想的に具現化しています。
「グレイト」冒頭のホルンはゆったりと柔かく味のある音で始まりますが、主部に入るとベームとシュターツカペレ・ドレスデンの戦前の録音のような切羽詰まったような斬れ味と晩年の渋み溢れた音との交錯。どんなにベームが攻めてこようと、自分たちの音は守った範囲内で演奏するぞというオーケストラとの戦いの様相。熱くなりすぎたテンポを楽段ごとに元に戻す感じで進む。しかし最後のコーダで金管が猛烈に第1主題を絶叫してしまうところはライブならでは。その後の弦楽器の深い音色がより生きる。第1楽章を聴いただけで、ちょっと疲れる緊張感とスリルの連続。
第2楽章は一転して肩の力が抜け、早めのテンポで進みますが後半に行くについれてまた前のめりになったり、落ち着いたり。ただその落ち着いた時のシュターツカペレ・ドレスデンの弦楽器と木管楽器の何とも言えぬドイツ的音色がやはり素晴らしい。腰が据わっていて温もりと広がりがある伝統に育まれた音色。
第3楽章は前のめりで来るか?と思いきや、スケルツォにも関わらずここはいったん一休みと言った風情。ベームもここはオーケストラの手綱を緩めて任せたとオーケストラ主導で進みます。ピチッと決めるとこだけ力こぶを入れ、あとは諸君頼むよという感じで粛々と流れていく。懐かしい歌の数々が繰り広げられる。
そして第4楽章。晩年のベームは遅いテンポが特徴でしたが、この演奏は早い。少し食い気味で音を捉えて進み、切迫感のある早いテンポ。リハーサルで決まったテンポというより、指揮棒にオーケストラが何とか応えようと必死の中での読み合いの中で生まれる推進力。リズムは弾み、念を押すような弦楽器の「ダー・ダー・ダー・ダー」という旋律もただ力こぶを入れるだけになっていない。金管楽器も力みが少しとれて暖まった音。「これで最後になるんじゃなかろうか」と思いながら面々は演奏していたのか、本当に音が活き活きしていて晩年の頑固爺さんが指揮している感じがしない。
日本ライブと比べるのも一興。少しテンポが後ろ重心。
力演でわぁーと勢いだけで終わることの多いコーダもベームの熱とシュターツカペレ・ドレスデンの音色の絶妙な音の玉手箱で充実したフィナーレ。最後の和音も切り上げが早い。若き日のベームが蘇った様な凝縮した響き。意外と隠れ名盤ですが廃盤になり、廉価盤でたまにひっそり復活する演奏。
素直にいい演奏聴かせてもらったぁと納得させられる演奏です。最初は入手するのに輸入盤を結構探して何とか手に入れた思い出があり、初めて聴いた時には嬉しさが一入。晩年のベームのイメージを払拭してくれた思い出の演奏です。燃えるベームを聴きたい方には、日生劇場での「フィデリオ」ライブを。レオノーレ序曲の初っ端の音にはのけぞります。1:41:21~
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